第60話 闇が深いな

「それでは早速、宝箱を開けていきたいと思います」


〈楽しみ〉

〈レアアイテム見たい〉

〈どれから開けるのかな?〉


「まずはこっちの新しく出た宝箱の方から開けていきます」


〈通常報酬の方か〉

〈何が出るかな何が出るかな〉

〈AI鑑定設定しといた〉


「お、これは……腕輪ですね」


 最初の宝箱から出てきたのは腕輪だった。

 紫っぽい色合いで、ちょっと不気味な文様が刻まれている。


「恐らく不眠の腕輪でしょう」


〈AI鑑定でも不眠の腕輪って出た〉

〈装備すると寝る必要がなくなるってやつ?〉

〈社畜愛用の装備や〉

〈受験生にも必須〉

〈眠くは無くなるけど、身体は蝕まれていくらしい〉

〈外した瞬間にそれまでの疲れが一気に襲い掛かってきて死んだ人いるって〉

〈怖すぎだろ〉

〈そんなヤバい装備なのに買い手希望が多くて、売れば100万は下らないとか〉

〈闇が深いな……〉


「では次に行きますね。ええと……これは結晶系のアイテムですね」


 二つ目の宝箱に入っていたのは、淡く発光する八面体の結晶だった。


〈きれーい〉

〈離脱結晶じゃん!〉

〈好きなときにダンジョンから出られるアイテム?〉

〈ピンチになっても逃げ出せるってこと? すげぇ便利じゃん〉

〈これは割と希少なやつ〉


「はい、確かに離脱結晶のようです。一度使うと無くなってしまいますが、どんな状況でもダンジョンから瞬時に脱出することができるので、非常にありがたいアイテムですね。特に冥層に挑戦するときには必須級のアイテムです」


〈冥層はそれだけ過酷ってことか〉

〈地上に戻ってくるだけで何日もかかるからじゃね?〉

〈なるほど、これを使えばどんなに深く潜ってても一瞬で地上に戻れるわけか〉

〈冥層に挑む探索者なんてどんだけおるんや……〉


「俺は何個か持っているので、恋音にあげるとしましょう」


〈持ってるんだwww〉

〈さすがニシダ〉

〈恋音ちゃん裏山〉

〈かわいい姪っ子に差し出すのは当然の流れだろ〉

〈パワレベといい優遇され過ぎて草〉

〈過保護すぎるくらいがちょうどいいって〉

〈日常はともかく、危険いっぱいのダンジョンに潜るからなぁ〉


「はい、その通りです! ダンジョンではいつ何が起こるか分かりませんからね! 過保護なぐらいがちょうどいいんです!」


〈コメント拾われたwww〉

〈急なハイテンションで草〉

〈まぁ間違ってない〉

〈あんなにかわいい姪っ子がダンジョン潜るんだからそりゃ心配だって〉


「えー、それでは三つ目の宝箱を開けてみましょう。……む、これは」


 それは不気味な装飾の施された盾だった。

 真ん中に悪魔の顔のようなものがあって、正直あまり持ち歩きたくない。


〈ヤバそうな盾〉

〈装備したら呪われそう〉

〈AI鑑定によると悪魔の盾だって〉

〈生命力が半分になるデバフ付きの盾か〉

〈その代わりめちゃくちゃ防御力高いっぽい〉

〈呪われるわけじゃないのか〉

〈悪魔シリーズといって、他にも何種類かあるみたい。全部装備すると呪われるとか〉

〈悪魔になるんじゃね?www〉


「俺は盾を使わないので、後で売る感じですかね。売れるかどうか分からないですけど……」


 そしていよいよここから、迷宮暴走中の強化ボスを倒した報酬の宝箱だ。


〈ここからが本番だな〉

〈報酬がグレードアップするってマ?

〈期待大〉

〈今んとこパッとしない報酬だったからなー〉

〈いや十分レアだって〉

〈感覚が麻痺してるだろwww〉


「一つ目は……これは、スキルの書ですね」


 最初に出たのはお馴染みスキルの書だった。


「なになに? 確率無効? あまり聞いたことのないスキルです」


〈ダンペディア見ても載ってないぞ〉

〈レアスキル確定!〉

〈確率を無効化するってこと? それとも確率で無効化?〉

〈確率で無効やろ〉


「なるほど、どうやら取得すれば、一定の確率で受けたダメージを無効化できるスキルのようですね」


 スキル書の裏表紙には、それがどういう効果を持つものなのかの説明が記載されている。

 ちなみに明らかに見たことのない言語なのだが、なぜだか覚醒者なら読むことが可能なのだ。


〈すげーじゃん〉

〈どんな大ダメージでも?〉

〈これは激レア〉

〈ダンペディアに載ってないくらいだもんな〉

〈あんまりダンペディアを信用し過ぎんなって〉


 これは俺も保有していないスキルだが……正直これから先、このスキルに頼るようなシーンはないだろう。

 別に冥層を探索するわけじゃないし。


 というわけで、これも恋音に使ってもらうとしよう。


〈また恋音ちゃんに読ませるんだろ〉

〈だな〉

〈間違いないw〉

〈ニシダの叔父バカ極まれり〉


 なぜか視聴者たちに俺の心を読まれているんだが……?


「では次の宝箱を。……おっ、これは魔石のようです」


 宝箱の中に入っていたのは、黒く輝く大きな石だった。


「しかもこの黒色……相当な高濃度ですね」


 ダンジョンで採掘される魔石は、その名の通り魔力を含有した岩石のことだ。

 現代社会を支える新たなエネルギー源として非常に重宝されていて、日本でもすでに発電量の半分近くがこの魔石に置き換わっている。


〈魔石の採掘は各国が血眼になって推進してるやつ〉

〈小さくても相当な電力を作り出せるらしいな〉

〈石炭の何千倍とか〉

〈環境にも優しい〉

〈お陰で昔と比べて電気代めっちゃ安くなったわ〉

〈ダンジョン様様だよな〉


 そして魔石は通常、紫色をしているのだが、その濃度が高ければ高いほど紫が深くなり、最終的には黒になっていく。


〈黒い魔石は平均的な紫色の魔石に比べて、含有魔力は何百、何千倍にもなるらしい〉

〈半永久的に魔力を発するから魔道具にも使えるとか〉

〈売ればどれぐらいするんやろ……ごくり〉

〈ぜんぜん相場が分からねぇ〉

〈数百万とか?〉

〈もっとするやろw〉

〈数千万?〉

〈わからん〉

〈教えて詳しい人〉

〈お願いします〉

〈誰かー〉

〈分かる人いるかな?〉

〈野良の専門家カモン〉

〈おーい〉

〈どうやら誰も分かるやついない模様www〉

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