第59話 RTAやってた?
隠しボスのタラスクを倒し、出現した転移ポータルを前に、俺はとある提案をしていた。
「三人は先に帰っててほしいんだ。俺は地下30階に寄り道して、ボスを倒してから帰ろうと思ってるから」
〈地下30階!?〉
〈ボスを倒してから戻るって……〉
〈どんな寄り道だよwww〉
〈普通はメイン〉
〈なんか知らんけど配信もうちょっと楽しめそうで嬉しい〉
「ボスを倒してからって、ここから深層10階分も先ですよね!?」
「そうだな。まぁ最低でも一時間はかかるだろう」
〈もしかしてフォレストドラゴン倒したときの報酬を取りにいく気かな?〉
〈なるほど〉
〈まだそのままになってたの?〉
「はい、実はコメントの通りです。そのうち誰かが手に入れてくれるだろうと思って放置していたんですが、どうやらまだそのままになっているようでして」
〈何で分かるんだ?〉
〈報告がないからだろ〉
〈ボスの討伐報酬は報告不要なはず〉
〈まだあれから一度もボスが討伐されてないからじゃね?〉
〈こっそり宝箱だけ開けるの無理なんかな〉
「詳しくは分かりませんが、管理庁から怒られたんですよ。『クラス6ダンジョンの攻略報酬を放置しているなんてあまりにも勿体なさ過ぎる』って。なので今からついでに取りに行こうかと」
〈それはそうかもw〉
〈場合によっては超貴重なアイテムかもしれないしな〉
〈迷宮暴走中のボス討伐の場合、報酬内容が通常よりグレードアップするって噂もある〉
〈取りに行くだけでも大変なんだけどなー〉
〈ニシダなら余裕だろ〉
「悪いな、コラボ配信のついでにやろうとして。さすがに何もないのに地下30階まで行くのは面倒でさ」
「いえいえ、全然大丈夫です! それじゃあ、コラボ配信としてはここで終了としましょう! ケンちゃんネルとしてはそこまで続けるつもりですか?」
「一応な」
「美久チャンネルの方は地上で戻ってから締めをするので、もしケンさんの続きが気になる方は、ぜひケンちゃんネルへ!」
〈美久ちゃんお疲れ様~〉
〈ケンちゃんネルに視聴者誘導してくれるなんて神対応〉
〈バイバーイ〉
そうして三人が転移ポータルで姿を消すのを見送ってから、俺は改めて地下30階を目指した。
「……はい、というわけで、地下30階のボスのいるところにやってきました」
〈え、もう着いた?〉
〈まだ30分くらいしか経ってなくね?〉
〈速すぎて草〉
〈RTAやってた?〉
「転移トラップが二回とも運よくすぐに見つかった上に、転移先ガチャにも恵まれましたから」
地下20階の転移トラップで地下25階まで飛んだあと、地下25階の転移トラップでボスのいるここ地下30階まで飛ぶことができたのである。
かなり幸運が重なったお陰で、昇格試験のときより遥かに短い時間でボスのところに辿り着いたのだった。
「ええと、そんなことよりボスは……おっ、今回はしっかりいましたね」
山頂の火口を満たす美しい湖。
その畔にポツンと生えている二本の大木……それがこの井の頭ダンジョンのボス、双頭のフォレストドラゴンだ。
「迷宮暴走で強化されたボスではないので、前回のように苦戦することはないと思います」
〈苦戦したっけ?〉
〈ほぼ瞬殺だった記憶〉
〈いや一回ボスが逃げただろ〉
〈ボスが尻尾を巻いて逃げてる時点で苦戦ではないw〉
「近くにちゃんと宝箱もありますね。ボスが再出現しているので転移ポータルは無くなってますけど」
〈宝箱が三つ!〉
〈中身が気になる〉
〈これでボス倒せばさらに宝箱出てくるってこと?〉
〈そうなるな。もちろん古いのは消えないはず〉
俺はその二本の大木へと近づいていく。
するとこちらの接近に気が付いたのか、大木がゆっくりと動き始めた。
ズバッ!!
俺の振るった包丁の一閃が、二本の大木をそろって輪切りにした。
盛大な音と振動を立てながら、大木が地面に倒れ込む。
〈は?〉
〈ひ?〉
〈ふ?〉
〈へ?〉
〈ほ?〉
〈マジ?〉
〈ええええええええっ!?〉
〈ちょいちょいちょいちょい〉
〈南無〉
〈合掌〉
〈アーメン〉
〈ボス瞬殺で草〉
〈まだ登場演出中だったのにwww〉
倒れ込んだ木の先端がドラゴンの頭部へと変貌していく。
〈今さら正体見せても遅すぎだって〉
〈いやよく見たらまだ動いてる〉
〈え、あれで死んでないの?〉
〈さすがボス、生命力すげぇ〉
「強化ボスほどではないものの、割と高い再生力がありそうですね」
よく見ると切断面から根のようなものが伸びて、地面に繋がろうとしていた。
俺は追撃でトドメを刺す。
「はい、これで倒せたと思います」
〈相変わらず容赦ねぇwww〉
〈深層ボスですらこの扱いかぁ〉
〈さすが冥層まで行った男〉
〈全然まだ本気じゃなさそう〉
〈本気のニシダが見られるのは地下40階以降じゃね〉
〈ガチでどこまで行けるかチャレンジやってほしい〉
〈お店があるから難しいやろ〉
パンパカパンパカパーンッ♪
ボス討伐に成功した証拠に盛大なファンファーレが鳴り響く。
「新しく三つの宝箱が出現しましたね」
〈宝箱六個wwwwww〉
〈一つくらい分けてほしい〉
〈中身次第では一生遊んで暮らせるんじゃね?〉
〈何が入ってんだろ、ワクワク〉
〈そこらのXチューバーがやってるガチャ開封なんかより遥かに楽しみ〉
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます