第45話 色んな意味でパワーレベリング

 それから恋音は瀕死状態の深層の魔物を、戦斧の強烈な一撃で次々と仕留めていった。

 すると五体目を倒したところで、


「な、なんだか、さっきより身体から力が溢れてきたような……?」

「来たか。それがレベルアップの感覚だ」


〈もうレベルアップしたのか〉

〈さすが深層の魔物を相手にしてるだけのことはあるな〉

〈こんなノーリスクでも経験値入ってくるんや〉

〈恋音ちゃんどんどん強くなれ~〉


「それじゃあ、俺はもっと魔物を連れてくるから。そうしたら金本さんもパワーレベリングをしていこう」

「は、はいっ、分かりました!」


 俺は再び地下21階の深層へ。

 魔物を探しつつ、俺は視聴者たちに話しかける。


「パワーレベリングの是非については色々議論があると思います。ゲーム的な経験値は稼げても生の戦闘で得られる経験値は得られないとか、みんなリスクを冒して少しずつ自分を鍛えていってるのに手軽に強くなるなんてズルいとか」


〈ゲームによってはパワレベ禁止されてるしなぁ〉

〈これはゲームじゃなくて現実だぞ〉

〈それな。遊びじゃねぇんだよ〉

〈現実だからこそ最低限の倫理観は必要じゃね?〉

〈何が倫理観だよw〉


 コメント欄でも賛否両論のようだ。


「実は俺自身、かつて何度も命を危険に晒しながら自力でレベルアップしていったこともあって、個人的にもあまりこういうやり方は好きじゃなかったりします。ただ……」


〈そうなのか〉

〈じゃあ何でやってんの?〉

〈矛盾してて草〉



「そんなの関係ねぇええええええええっ!!」



〈!?〉

〈どうしたニシダ?〉

〈いきなり叫ぶなよビビッてチビっちまったじゃねぇか〉

〈唐突な小島よ〇おで笑った〉


 混乱する視聴者たちを余所に、俺は思いのたけを叫ぶ。


「危険なダンジョン探索なんて、本当は可愛い姪っ子にやらせたくないんだ! けど恋音はああ見えて我の強い子だから、俺や他の大人たちがどんなに説得したところでいつか絶対にやるだろう! だからせめて、少しでもリスクを下げてやりたい! そのために手っ取り早いのがレベルアップなんだ!」


〈な、なるへそ〉

〈よく分かりました〉

〈……パワーレベリングは必要だよね、うん〉

〈いやおじさん落ち着けってwww〉


「だから俺は恋音のレベルをガンガン上げてやって、せめて下層程度の魔物に負けないくらいの強さにしてあげたいと思っている!」


〈下層って相当だぞ〉

〈最低でもBランクってこと?〉

〈今まだFランクだよな〉

〈どんだけパワレベするんだw〉

〈そんなこと言いながらもう六体も獲物ゲットしてんぞ〉

〈ほんとだいつの間にwww〉


 支配下に置いた魔物たちは自ら恋音たちのいるところに向かっていってくれるので、俺はひたすら階段周辺の魔物を瀕死状態にしまくっていく。


「よし、こんなものかな。いったん戻るとしよう」


 そうして地下20階に戻ると。


「け、ケンさんっ……さすがに多すぎですよおおおおおっ!?」

「あれ?」


 そこは深層の魔物で溢れ返り、俺の姿を見つけるや金本美久が絶叫してきた。


〈うじゃうじゃw〉

〈魔物のパーティ会場みたいになってて草〉

〈100体くらいいるんじゃね?〉

〈しかも深層のデカい魔物ばっかだしなwww〉

〈襲い掛かってこないと分かってても普通に怖いって〉

〈限度を知らない男、ニシダ〉

〈俺、また何かやっちゃいましたか?〉

〈てか、支配できる数に限度ないんかいw 普通にヤバいスキルじゃん〉


「調子に乗って増やし過ぎたかも……恋音は大丈夫か?」


 慌ててその姿を探すと。

 深層の巨大な魔物の影に半ば埋もれつつも、小さな身体が躍動していた。


「えええいっ!」


 ズドンッ!


「やあああっ!」


 ズドンッ!


「たあああっ!」


 ズドンッ!


 恋音が戦斧を豪快にぶん回すたびに、魔物の身体の一部が粉砕していく。

 その動作に一切の迷いは感じられず、むしろどこか楽しそうですらある。


「す、すごいですっ……魔物を倒すたびに、どんどん強くなっていってる感じがします……っ!」


〈恋音ちゃんバーサーカー化しとるwww〉

〈あんな大人しそうな子なのに……〉

〈見た目は可愛らしいのに戦い方はゴリラやな〉

〈女の子にゴリラ言うなや〉

〈ええやん。わいはギャップ萌えする〉

〈さすがニシダの姪っ子。探索者としても将来に期待できそう〉


「あはは……うかうかしてるとすぐに追い抜かれちゃうかも? 私も頑張らなくっちゃ!」


 後輩の様子に触発されたのか、金本美久が気合を入れ直し、負けじと魔物をガンガン倒していく。

 結果、あっという間に100体くらいいた深層の魔物を一掃してしまったのだった。


〈死屍累々www〉

〈これ全部深層の魔物だよな〉

〈色んな意味でパワーレベリング〉


「はぁはぁ……さすがに疲れたぁ……」

「そ、そうですね……でも楽しかったですっ、美久先輩と一緒に戦えて……っ!」

「……一緒だったかな? 完全に各々でやってたような?」


 俺は一帯を埋め尽くす深層の魔物を片付けながら、


「それじゃあいったん休憩といこう」

「「いったん?」」


 きょとんとした顔で首を傾げる彼女たちに俺は告げる。


「思ったよりも早く終わったからな。もう100体くらい行けそうかなと思って」

「「もう100体!?」」


〈まだやるんかい〉

〈スパルタで草〉

〈さっき反省したんじゃなかったのかよwww〉

〈さすがニシダ、反省を知らない男〉

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