第44話 思い切りよくて草
「ハァハァハァ」
「? 加賀さん? どうしたの? なんか息が荒いような?」
「……大丈夫です。何の問題もありません」
「もしかして体調不良?」
「いえ、むしろ絶好調すぎて尊死しそうなレベルです」
「とうとし……?」
なぜかびっしょりと汗を掻きながら謎の言葉を口にする加賀マネージャーに、首を傾げる金本美久。
「ど、どんな魔物が来ますかね……?」
「うーん、深層の魔物だから……普通に遭遇してたら、対峙しただけで気絶しそうになるような魔物かも?」
「そ、それは怖いですね……大丈夫かな……」
〈恋音ちゃん頑張って!〉
〈さすがのニシダもいきなりそんなヤバい魔物は連れてこんやろ〉
〈そうかな?w〉
〈常識を知らないのがニシダだからなぁ〉
と、そのとき。
深層へと続く階段の方から、ぬぅっと。
いきなり現れたのは、恐ろしく巨大な魔物だった。
「「~~~~~~~~っ!?」」
身の丈は五メートルを超え、しかもでっぷりと太っているため前後左右にも大きい。
大木のような足で地面を踏むと、それだけで地面が揺れた。
〈デカすぎんだろ……〉
〈トロル!?〉
〈いやどう見てもトロルの大きさじゃねぇぞ!〉
〈トロルは下層の魔物だろ? こいつは深層の魔物だから……〉
〈まさかメガトロル!?〉
〈深層から上がってきたのか!?〉
〈だからやめとけって言ったのによぉっ!〉
「こ、これが深層の魔物……わたしが普段戦ってる中層の魔物とは威圧感が桁違い……」
「あわわわわわわっ」
「下層の魔物とも段違いです……この防壁がいかに強固と言えど、これではさすがに……」
美久が声を震わせて呟き、恋音がパニック状態で呻き、そして加賀麗華が焦りつつも冷静に状況を分析する中、メガトロルの背後から暢気な声が聞こえてきた。
「おーい、連れてきたぞー」
◇ ◇ ◇
俺が地下21階から連れ帰ってきたのは、トロルの上位種であるメガトロルだった。
「ケンさん!? こ、この魔物は……っ!?」
「え? 伝えていた通り、深層の魔物を連れてきたんだが」
「てっきり拘束した状態で連れてくると思ってたんですけど!?」
〈めちゃくちゃ怯えてんじゃん〉
〈あーあ、だから言ったのに〉
〈そりゃいきなりメガトロルが現れたらビビるに決まってるってw〉
〈しかも自分の足で階段あがってきたらなぁ〉
首を傾げつつコメント欄を見てみると、酷評の嵐だった。
どうやらもう少し配慮が必要だったらしい。
「あー、悪かったな。心配しなくても、こいつは襲いかかったりしないぞ。魔物支配っていうスキルを使って一時的に操ってるから」
「そ、そうなんですね……びっくりしました」
〈どう考えてもレアスキルだよな〉
〈魔物の大群を率いて無双できんじゃね?〉
〈けどニシダからすれば配信で全世界に公開する程度のスキルなんだろ〉
〈ニシダどんだけスキル持ってんの?〉
生憎とそれほど使い勝手のいいスキルではない。
瀕死状態にしないと支配できない上に、永遠に支配できるわけではないのだ。
「このメガトロルも死ぬギリギリまでダメージを与えてある」
「確かに、よく見たらボロボロですね……」
「というわけで、恋音。こいつにトドメを刺してみるんだ。っと、そうだ。こいつを渡しておくのを忘れてた」
俺が取り出したのは、長い柄に巨大な刃が付いている戦斧である。
「あ、ありがとう、賢一おじさん」
実は恋音のために仕入れておいた武器なのだが、女の子の平均身長くらいの彼女に手渡すと、その可憐な容姿と相まって何とも不釣り合いな印象だった。
〈あれが恋音ちゃんの武器!?〉
〈イカつぅ!〉
〈あの細腕であんなのまともに扱えるのか?〉
〈けど普通に持ってるぞ?〉
比較的軽量なミスリル製だが、それでもこのサイズだと結構な重量がある。
覚醒したばかりでは、振り上げるだけでも一苦労だろうが、恋音は「すごい……斧なんて初めて扱うのに、まるで以前から使ってたみたい……」と呟きながら軽々と持ち上げていた。
恋音は覚醒者として目覚めると共に、二つのスキルを獲得していた。
それが「斧技」と「巨人の腕力」だ。
斧技はその名の通り斧を扱うスキルで、巨人の腕力は巨人並みの膂力を得られるというスキルである。
「それでメガトロルを仕留めるんだ」
「う、うん……やってみる」
ちなみに、魔物にトドメを刺すことで獲得経験値が増えるのではないかというラストヒットボーナスについては様々な議論があるが、個人的には決して大きくはないものの「ある派」の立場だ。
「い、いきますっ……えええええええいっ!」
ズドンッ!
恋音の繰り出した戦斧の一撃は、真っすぐメガトロルの頭部へと叩き込まれた。
〈頭にいきおったw〉
〈脳天www〉
〈メガトロルくん涙目〉
〈思い切りよくて草〉
瀕死だったメガトロルが白目を剥き、その場に盛大に倒れ込む。
どうやら絶命したようだ。ちなみに死んだら魔物支配の効果も切れるため、死体を操ることはできない。
「や、やったの……?」
「ああ、見事に倒したぞ。というか、思い切りがいいな。いきなり急所の頭を狙うなんて」
てっきり恋音の性格なら頭は躊躇するかと思ったのだが。
そもそも相手が魔物であっても、命を奪うことに抵抗を持つ覚醒者は多い。
特に最初はなかなか踏ん切りがつかず、中にはせっかく覚醒者として目覚めたにもかかわらず探索者になることを諦める者もいるほどだ。
「これならどんどんやれそうだな。よし、今度はあいつだ」
俺が邪魔なメガトロルを蹴り飛ばすと、その背後には巨大な蜘蛛の魔物の姿が。
「クイーンタラントラ!? って、後ろにもっと魔物が並んでる!?」
それに気づいて金本美久が叫ぶ。
実はメガトロルだけではなく、まとめて何体か魔物を支配し、連れてきていたのだ。
〈客だけじゃなくて魔物の行列まで作るとか〉
〈深層の魔物が大人しく並んでるのシュール過ぎだろwww〉
〈ニシダに見つかったのが運の尽きだな〉
〈恋音ちゃんの経験値になれるんだ。むしろ本望だろ〉
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