第38話 ニシダVS深層ボス
地下30階にボスがいないことが分かってから、俺は全速力で上階を目指した。
公式チャンネルの配信を通じ、ボスが下層である地下20階にまで進出したと分かったのは、まだ地下25階くらいを走っていた頃だろうか。
〈ボスが地下20階に!〉
〈受験者たちが襲われてる!〉
〈ニシダ急いで!〉
〈間に合うかな? 今ニシダ何階にいるんやろ〉
公式チャンネルに緊迫した状況を伝えるコメントが流れてくる中、俺はひたすら疾走し続けた。
そしてようやく地下20階に辿り着いたときには、双頭のフォレストドラゴンが進化して多頭のフォレストドラゴンと化していた。
八つの首による多重ブレスが真っ先に狙ったのは、治癒魔法を得意とする本願良子。
だがどうにかその前に割り込み、ブレスを相殺することができた。
「ふう、危ないところだったな」
〈ニシダあああああああああああああああああっ!〉
〈ニシダあああああああああああああああああっ!〉
〈ニシダあああああああああああああああああっ!〉
〈最高のタイミング〉
〈出来過ぎなくらい〉
〈ワザとじゃね?w〉
〈だったらスライムも助けてやってくれよ〉
〈それなw〉
「ああ、スラたん……あたしが初めて従魔にした子だったのに……」
「スライムならあそこにいるぞ」
「え?」
俺が指さした方向へ、清水雫が視線を向ける。
そこには壁に激突し、べちゃりと潰れてしまっているスライムの姿があった。
ブレスを相殺するのに邪魔だったので、つい蹴り飛ばしてしまったのだ。
「あの耐久性なら死んでないはずだ。たぶん」
〈スラたああああああああああああああああんっ!〉
〈生きてたんか!〉
〈ニシダ最高〉
〈さすが俺たちのニシダ〉
「あはは、助けられちゃったねぇ」
「ここからは俺に任せてくれ」
「……一人で戦う気?」
「その方が戦いやすい」
「確かに君ほどの強さなら、あたしらなんて足手まといかもねぇ。でも、せめてこれくらいは」
本願良子が治癒魔法を使ってくる。
すると一瞬で疲労が吹き飛んでしまった。
「おお、これは助かる」
「じゃあ、頑張ってねぇ」
〈ついに実現、ニシダVS深層ボス〉
〈しかもソロで戦うんか!〉
〈正直ニシダと他の連中では力の差が歴然だからな〉
〈がんばれニシダ……お前がナンバーワンだ〉
「「「「グルアアアアッ!」」」」
「ようやく会えたな。けど……とっとと終わりにさせてもらうぞ。明日からは店を開きたいからな」
〈もうちょっと休んでもええんやで……〉
〈社畜の俺が可哀そうに思うレベル〉
〈好きなことやってるんだからいいんじゃね?〉
〈それな。やりたくないことやってる社畜とは違う〉
〈会社に生かされてるだけの存在だからな社畜は。そこに自分の意思などない〉
〈社畜フルボッコで草〉
俺の包丁が闘気を帯びて光り輝いていく。
「な、なんて闘気なんだっ!?」
「これは……吾輩のそれとは桁が違う……さすがは我が心の師匠であるな」
「ヒャハハッ、目の前でおっさんの戦うとこを拝めるとはついてるぜ」
俺は地面を蹴った。
一足飛びでフォレストドラゴンとの距離を詰めると、
ザンッ!
その身を一刀両断する。
〈は?〉
〈へ?〉
〈お?〉
〈な?〉
〈えええええええええええええええええええええええっ!?〉
フォレストドラゴンの巨躯に入った線。
それを中心に徐々に左右の身体が分かれていく。
「「「「アアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」」」」
やがて多重絶叫と共に、真っ二つになった巨体が倒伏した。
〈一撃……〉
〈Aランク探索者五人がかりで苦戦してた相手を〉
〈これがニシダ……〉
〈どんだけ強いん?〉
〈さすが地下53階の冥層到達者〉
〈嘘松認定されてたけど、俺は信じるわ〉
〈こんなん見せられたら信じるしかないやろ〉
「ニシダくーん、注意してよ~、まだ生命力が残ってるから~」
「なに?」
本願良子の注意喚起に、俺はハッとする。
直後、切断面から無数の枝のようなものが伸びてきた。
かと思うと、それが切断面同士を繋げ、さらには元の姿へと修復してしまう。
〈再生力ヤバ過ぎだろ!?〉
〈なんなんこいつ!?〉
〈だからこのボスのデザインしたやつ呼んでこいって〉
〈どうするニシダ〉
「どこかに急所でもあるのかもな。首を斬り落としてみるか」
俺は試しに八つの首を順番に落としていったが、それもすぐに元通りになってしまった。
〈当たり前のように首を狩ってくニシダ〉
〈普通の魔物なら確実に死んでるんだがな〉
〈ニシダも異常ならこのボスも異常〉
そのとき本願良子が手を上げた。
「はいは~い! もしかしたら異常再生力の源が分かったかもしれないよ~」
「本当か?」
「うん、身体から出てる根のようなやつ。よく見たらあれが地面と繋がってるんだよね~」
「なるほど。ダンジョンからエネルギーを吸収し、それで身体を再生しているわけか」
つまりダンジョンそのもののエネルギーが枯渇しない限り、何度でも再生できるということ。
「だったら……その根をダンジョンから斬り離してやればいい」
根は何本もあるので、一つずつ斬っていたら面倒だ。
丸ごと切断するべく、俺はボスの脚元を一息で斬り払った。
「「「「オアアアアアアアアアアアアッ!?」」」」
無論、すぐに新たな根を伸ばしてダンジョンと繋がろうとするが、
「させるか」
そのたびにまた斬り払いをお見舞いする。
〈斬った場所が再生しにくくなってる!〉
〈明らかに再生能力が落ちてるぞ!〉
〈倒し方が分かったらこっちのもんだな!〉
だがそのとき、フォレストドラゴンが背に生えた翼のような器官を大きく広げたかと思うと、
ブオオオオオオオンッ!!
爆風を周囲に撒き散らしながら、その巨体で宙を舞った。
〈は?〉
〈やば〉
〈こいつ飛べるん?〉
〈このデカさで飛行能力あるのかよ〉
〈一応ドラゴンだしな〉
〈しかもめっちゃ速い!〉
〈だからこんな短時間で下層まで来れたのか〉
〈逃げてくし〉
〈ボスが尻尾巻いて逃げ出すとか〉
無論、みすみすと見逃すはずがない。
俺は地面を蹴って跳躍、さらには風魔法で飛翔する。
〈追いつける?〉
〈ボスが速い!〉
〈ニシダ、逃がすなよぉっ!〉
だがフォレストドラゴンが巨体とは思えない速度で進んでいくため、少しずつ距離ができてきてしまう。
「あまり飛ぶのは得意じゃないんだよな。けど……走るのは割と得意だ」
俺は宙を蹴った。
それで一気に加速する。
〈ええええええええええっ!?〉
〈ニシダが急加速したぞ!〉
〈空中を走ってない!?〉
〈そんなんありか?〉
〈まぁそれくらいニシダなら余裕だろ〉
〈ニシダだからなー〉
〈よし、追いついてきたぞ!〉
どんどんフォレストドラゴンとの距離が詰まっていく。
慌てた深層ボスはブレスや枝攻撃で対抗してきたが、俺はそれらをことごとく回避。
「今度こそ終わりだ」
再びフォレストドラゴンの巨体を両断する。
二つに泣き別れて地面に落ちていくが、さらに俺はそこへ容赦ない追撃をお見舞いした。
「半分になった程度じゃ死なないかもしれないからな」
何度も何度も執拗に身体を斬り刻んでいく。
さらにはバラバラになったその肉片を、火魔法で燃やしてやった。
〈容赦なくて草〉
〈そりゃあんだけ再生するのを見てたらなぁ〉
〈やったか!?〉
〈フラグ立てんなって〉
ほとんど灰と化したフォレストドラゴンの残骸が地面に降り積もった。
「さすがにこれで終わりだろう」
……終わり、だよな?
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