黄ばんだ畳に落ちた薄暗闇を、真っ赤な夕日が斜めに照らし出していた。俺は、せめてその暗闇の方に隠れてしまいたかったのだけれど、姉がそれを許さなかった。白いワンピースを脱いだ姉は、中に着ていたキャミソールや下着も脱いで、裸になった。姉の裸を見るのは、物心がついてからははじめてだった。

 「祐樹も脱いで。」

 姉が金糸雀みたいにきれいな声でそう言ったけれど、俺は怯えたように手足を縮め、薄暗闇に身を隠そうとした。姉はそんな俺を見て、笑っていた。やはり、嫣然と。姉は、そのとき処女だった。なのになんであんな表情や身のこなしができたのか、俺にはいまだにわからない。男の身体にはすっかり倦んだ商売女が、自分の情夫に手を伸ばすみたいな、そんな様子で姉は俺の腕を引いたのだ。

 薄暗闇から引っ張り出され、真っ赤な夕日に照らされた畳の上に座らされた俺は、怯えていた。姉はそんなことには構わず、俺の服を脱がせた。抵抗は、できなかった。抵抗したときが、姉を失うときだと分かっていた。

 怯えていたのは確かなのに、禁忌の予感に身も心も竦んでいたはずなのに、服を脱がされた時点でもう、俺は勃起していた。10歳だった。辛うじて精通はしていたので、自分の身体の変化が意味するところは理解できた。理解できたから、なおさら怯えた。自分がわけの分からない化け物じみたなにかに変わってしまった気がした。

 裸の俺を、正面から姉は抱きしめた。姉の身体は、冷たかった。ひんやりと隅々まで、長いこと水の中にいたみたいな冷え方をしていた。あれは、夏の暑い盛りだったのに。

 「祐樹。」

 姉が、俺を呼んだ、その声は、あからさまに濡れていた。姉に犯された、とは、今も昔も言いたくない。俺は勃起したし、自分から姉に触れた。姉の濡れた声に誘われるみたいに、彼女の全身に触れたし、身体の中まで探った。だからあれは、レイプではない。俺は、自発的に姉を抱いたのだ。姉の中は、熱かった。身体の表面はあんなに冷たかったのに。身体を繋げたとき、姉は、いたい、とごく小さな声を上げた。あの声は、熟れた娼婦のそれではなく、まだ硬い少女のそれだった。けれど俺は、止まれなかった。その余裕がなかった。今思えば、あれが最後のチャンスだったと思う。引き返す、チャンス。普通の姉弟として生きていく、最後のチャンス。俺は、それを逃した。

 行為が終わると、姉は化粧を直し、母の形見の黒いワンピースに着替え、部屋を出ていった。

 俺は、すっかり暗くなった部屋の中で蹲り、少しだけ泣いた。

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