恋い焦がれる
西野 夏葉
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学校帰りのドーナツ屋でチョコレート味の輪っかを崩しながら、私が「恋するのってどんな感じ?」と訊ねたとき、マヤは大げさに目を丸くしていた。もともとマヤは目がくりくりしててなんだよこいつもう私と付き合えよって思うくらい可愛い子なのだけど、こんな顔をしても可愛いのはさすがにずるい。チートだろこんなの。運営に通報だ。私にこの見た目をくれなかった神様を永久にBANしたい。
一拍おいて、マヤは「なしたの、ミユ。いきなり」と心底驚いている声色で言った。
「うちらの年代って急にナイーブになる子いるけど、まさかこんな身近にいると思わなかった」
「だって気になるでしょ。私はまだ恋とかしたことないし、マヤのほうが見聞広そうだもん」
「やめてくんない? あたしだってそんなに経験豊富じゃないよ」と、マヤは手をひらひらさせながら笑った。この子が笑うときの口の形はちらりと見える上の歯と下唇がぴったり沿う、いわゆるスマイリーマークのような美しいお手本の形。引き結んだまま、曖昧に口角を上げるくらいしかできない私とは違う。
マヤはあんなふうに謙遜したけれど、彼女はこれまでに何人の男子と付き合っていただろうか。すぐに思い出せる顔の数だけで、片手の指があっけなく全て折れた。
普通に過ごしていたらきっと交わらなかった私とマヤの描く線が交わったのは、たまたまある日の登校前に私がコンビニに寄ったとき、レジで困惑した表情を浮かべている店員の向かいで、空っぽの財布をひっくり返すマヤに出会った瞬間だった。
その時点で私はマヤと会話をしたことはなかったけれど、まあクラスメイトだし……と横から偉人の肖像が刷られた紙を差し出してあげたのだ。これで適当に扱われて終わったなら、私はもう金輪際誰に対しても助けの手など差し伸べてたまるかと思っていたけれど、実際マヤはそんな子ではなかったし、なにより今もこうして学校帰りにドーナツを二人でぱくついているくらいには仲を深めていた。
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