第9話 エミリス絶対絶命!

 薄暗い森の中を走る1人の少女とそれを追いかける魔物がいた。


(なんなのよ!これ!?)


 エミリスはひたすらシルバーウルフから逃げていた。

 フガイの森でレベル上げと素材集めをしていたエミリスは偶然にもシルバーウルフに遭遇してしまったのだ。

 そして現在に至る。


(今、私のレベルは21…こいつ単体でも30なのよ?勝てるわけないじゃない!)


 エミリスはとにかく走り続けた。1匹なら頑張れば勝てるかもしれない。だが群れに遭遇してしまえば彼女の命はないだろう。


(とにかく…逃げないと…!)


 しばらく森の中を走ると光が差し込む草地に出た。


 後戻りしようにもエミリスを追いかけていたシルバーウルフが逃げ道をふさいでいた。


(そんな…このまままっすぐ走るしか…。)


 そう思ったのも束の間、複数の茂みからシルバーウルフたちが出て来た。そしてシルバーウルフたちはエミリスを逃がさないようにゆっくりと囲い始める。

 どうやらエミリスはシルバーウルフたちの罠にはまってしまったようだ。


(最初からこの場所に誘い込むのが目的だったのね。もうこうなった以上…)

「やるしかないわね…!」


 エミリスは覚悟を決め、背中に背負っていた杖を手に取った。

 エミリスは杖を構え、詠唱を始める。


「"荒れ狂う炎よ、我が身を守りし盾となれ!"」


 エミリスの周りにオレンジの魔法陣が描かれる。

 エミリスに1匹のシルバーウルフが飛びかかって来た。


「【守護の炎壁フレイムウォール】!」


 魔法を唱えるとその円から炎が舞い上がり、ドーム型の魔法障壁になった。障壁に触れたシルバーウルフは瞬く間に火だるまになった。


「まだまだいくわよ!」


 エミリスは再び杖を構える。


「"揺らめく大炎よ、その揺らめきを波に変え、敵を焦がせ!"」


 エミリスの周りに炎が広がる。


「【大炎の波紋ヒートウェーブ】!」


 炎が波のように襲いかかり、炎の波に触れたシルバーウルフたちは一瞬で燃え上がった。


「魔力の消費は激しいけど、ここを乗り切れば…」


 エミリスは障壁を張りながらひたすら【大炎の波紋ヒートウェーブ】を繰り出していた。しかし、シルバーウルフは減るどころか次第に数を増やしていく。


「そんな…まだいるの?おじいちゃんから聞いた話だと群れを作るとしても数匹くらいだって…」


 エミリスはとにかくシルバーウルフがいなくなるまで魔法をうち続けた。

 しばらくするなぜかシルバーウルフたちが攻撃をやめ、逃げ出した。中には逃げきれずに気絶して倒れるものもいた。


(何が起きてるの…?)


 目の前の出来事に困惑していたエミリスだがすぐにその原因が分かった。

 確実に大きな何かがおぞましい唸り声とともに近づいてきたのだ。

 そのおぞましい何かの正体が分かった時にエミリスは恐怖で震え上がった。


「そんな…嘘でしょ?」


 目の前には長年の激戦により鍛え上げられた巨大な身体、激戦の末に敗者の血を浴び、異様な輝きを放つ銀色の毛皮を纏った紅銀の狼王ブラッティシルバーが立っていたのだ。


(なんで…なんで変異種アノーマがここに?)


 恐怖で動けなくなったエミリスに紅銀の狼王ブラッティシルバーは大きな口を開け、こちらに向かって来た。


「キャアアア!」


 エミリスは頭を抱えうずくまった。

 だがいくら待っても痛みや意識が遠のくという感じはなく、ただむせ返るような獣の血の匂いが鼻につき、バキバキという骨を砕く鈍い音が耳元で響いていた。

 エミリスは恐る恐る顔を上げる。そこには先ほど気絶していたであろうシルバーウルフが紅銀の狼王ブラッティシルバーに喰われていた。


(私…今から食べられるのね…。)


 エミリスは今目の前の光景を見て、次は自分の番だと覚悟した。それと同時に後悔もしていた。


(はぁ…こうなるならワークともっとお話したかったな…。)


 エミリスは最初にワークに出会った時に年下の男の子を目の前にして恥ずかしくなり強がってしまった。

 教会での儀式の際も本当は励ましてあげたかった。

 なんなら今日だって一緒にフガイの森を探索したりレベル上げをしようと思っていた。

 だが、自分より年下の男の子を目の前にしてどう接していいか分からず、あんな態度を取ってしまったのだった。


(いやだ…!こんなところで死にたくない!私はまだやることがあるのに…。)


 紅銀の狼王ブラッティシルバーはシルバーウルフを食べ終え、次の餌であるエミリスに視線を向ける。

 そして大きな口を開け、エミリスに向かって今度こそ襲いかかって来た。


「だれか…助けて!」


 そう口にした時だった。


 ドゴン!!


 紅銀の狼王ブラッティシルバーの右頬に何かが直撃し、その勢いで赤銀の狼王ブラッティシルバーは倒れたのだ。

 そして紅銀の狼王ブラッティシルバーに直撃した何かはエミリスの前で倒れた。


 目の前に現れたものの正体、それは…


「ワ、ワーク!?」


「痛たた…。頭が痛い…。」


 ワークは頭をおさえながら起き上がる。そしてエミリス姿を見て、


「よかった…間にあった…。」


 そう言って安堵した。


「さっき直撃してたけど大丈夫?というかどうやってここまで来たの?」


 困惑しているエミリスにワークは手を差し出して言った。


「助けに来たよエミリス。あとは僕がやっつけるから…。」



 ーーーーーーーーーーーー

○魔物の種類

魔物には通常種ノーマ変異種アノーマ希少種プレマと呼ばれる3つの種が存在する。


通常種ノーマ:通常の魔物。そのエリアやダンジョンに見合った討伐レベルを持つ。


変異種アノーマ:通常の魔物が一定の条件や環境によって進化または変化を遂げた種のこと。通常種ノーマに比べてレベルは高く、危険なエリアに生息していたり、ダンジョンのボスになっていたりする。


希少種プレマ:通常種ノーマ変異種アノーマに比べて出現頻度が少ない種のこと。希少種プレマの落とす素材やアイテムは高値で取引されたりする。


○魔物

紅銀の狼王ブラッティシルバー:シルバーウルフの変異種アノーマ。長年の縄張り争いの末に巨大な身体になり、毛皮の色も変化した。シルバーウルフたちはこの魔物に喰われる恐怖により危険を素早く察知して逃げ出す。普段はフガイの森の奥深くに群れを作らず、1匹で生息している。 討伐レベル100

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