第3話 僕、【見習い】になりました……。

 昨日は全く眠れなかった…。エミリスが作った焦げたパンは苦く、芋も蒸かしただけで素材そのものの味しかしなかった。食べている間もエミリスはずっと睨むだけ…。とにかく空気ぐ悪く、早くまずいながらも急いで食べてその場をあとにした。

 食事の後、アルマンに僕が住む部屋を案内された。


「わしの孫がすまぬな…。普段はやさしい子なのだがお主を見て恥ずかしがっているのかもしれん。」


 アルマンは苦笑いして話した。


 …そうは見えませんでしたが?あれ確実に嫌ってる目だよね?

 恥ずかしがってるなら頬赤らめるとか視線合わせないとかじゃん…。

 がっつり目合わせて睨んできましたけど?


 そう思ってる内に部屋についた。扉を開けると本当に何もなく、窓から差し込む緑の月明かりがさらに強調されていた。


「すまぬ。突然だったから準備できてなくてな…。明日の夜までにはベッドなど必要なものを準備しておこう。今夜はこれで我慢してくれ。」


 そう言うとアルマンは僕に布を差し出した。僕はその布を受けとる。今夜は冷えるとエミリスは言っていた。だがアルマンが渡してきたのは保温性など皆無の大きな布だった。


 これ…明日の朝まで過ごせるかな?


「それと明日の朝なんじゃが、わしと一緒に教会に来るように。手伝いの前にやらなければならないことがあるからな…。」


 そう言ってアルマンは部屋を後にした。

 僕はあまり食べれていない空腹と部屋の寒さの中、横になり布をかぶる。


 まぁ仕方ないよな。いや仕方ないんだけどさ…。

 せめて毛布とかあっていいんじゃないの?

 今日寒いってエミリスさん言ってたよね?

 僕への対応、なんか雑じゃない?


 込み上げてくる文句を心の中に留めておきながら少し冷えるなか、かたい床で痛みを感じながら僕は眠りについた。


 そして僕は無事、朝を迎えることができた。

 昨日はいろいろあって本当に眠れなかった…。

 僕は眠い目を擦り、部屋を出る。部屋を出たタイミングでエミリスと鉢合わせた。

 エミリスは驚いた顔をしていた。


「あっエミリスさん、おはようございます。昨日はその……」

「……ふん!」


 僕の挨拶を言い終える前にエミリスは踵を返し、そそくさと立ち去って行った。


 朝からあの態度か……。まぁアルマンと2人で暮らしているところに僕が急に居候として来たんだから、そんな態度になってもおかしくないか…。

 

 …そして朝食はパンだけだった。

 

 さすがに僕が悪いとしても、これは怒ってもいいよね...?


 怒ろうかどうか考えていると、代わりにアルマンがテーブルをドンと叩き、エミリスを叱り出した。


「これ、エミリス!これからは一緒に暮らすのだからもう少しまともなものを出しなさい!5歳のワークにこの量はかわいそうじゃ!これからワークには大事な儀式を行うのだからもう少し量を…」

「…ふん!」


 そんなエミリスは聞く耳をもたず、相変わらずそっぽを向いてツンツンしている。

 はぁ…いつになったら仲良くしてくれるのか…。


 ……ん、儀式?今、儀式って言った?

 僕、今から儀式受けるの?何か神復活の儀式的な…。あっ僕、生け贄になるために泊めさせてもらったのかな?教会の手伝いも嘘なんじゃ…。


 など思いながらガタガタと震えている僕を見てアルマンはきょとんとしていた。


「何を想像しておるのじゃ?もしかしてお主、"天性の儀"も知らぬのか?まさか職業ジョブという存在もか?」


 天性の儀?聞いたことないな…。職業ジョブは昨日アルマンがこの世界の説明をした時に聞いたけど詳しくは知らないな。僕は首をかしげた。


「これは驚いた…。ここまで記憶がないとは。なら説明してやろう。人は生まれながらにして自分の職、つまり職業ジョブというものが決まっておる。その職業ジョブが何かを見定めるのが天性の儀という儀式じゃ。」


 へぇ、この世界では職業って自分で決めれないんだな。


「アルマンさんも天性の儀で神官って分かったんですか?」

「まぁそうじゃな。天性の儀はお主の年齢と同じ5歳になってから行うんじゃ。教会にあるハーティの像に祈りを捧げることにより、わしの持っているこのプレートに名前とジョブが表示される。これで儀式完了じゃ。」


 アルマンは僕にプレートを渡す。プレートはスマホぐらいの大きさでとても軽かった。


「そのプレートにはレベルやスキル、自分の位置まで表示できて、さらには他の冒険者とも連絡を取り合うこともできる。まぁ連絡をとる場合は冒険者ギルドに自分の名前を登録しなければならないがな…。」


 いや、機能がスマホと変わらないじゃん…。どんだけ性能がいいんだよ。これ……。


「とにかく、冒険をするにもこの村で暮らすにも5歳のお主には天性の儀を行わなければならん。朝食を食べ終えたらすぐわしの教会に行くぞ。」

「分かりました…。」

「それとエミリス!これからワークには大事な儀式を行うのじゃ。倒れられては困るから食事の量を増やすように!あとお前もついて来い!」

「分かったわよ…。」


 少し間をおいてエミリスがキッと僕の方を睨む。


 …エミリスさん、こっちを睨むのやめてもらってもいいですか?

 その視線に殺されそうなんですけど…。


 充分に朝食を食べた後、僕はアルマンとエミリスと一緒に教会へ向かった。

 道中でエミリスの職業ジョブが気になったのでアルマンに聞いてみると【魔法使い《メイジ》】ということが分かった。しかもレベル20…。

 レベル上げは村の近くの森でアルマンに手伝ってもらいながらしたそうだ。


 僕も儀式が終わったら仲間とか集めて冒険してみたいなぁ…。なんて思っている内に教会に到着した。

 教会の扉を開けると、その奥には天使のような白い翼を持ち、ローブをまとっているその顔は美しく、まるで神話に登場する女神を思わせる大きな像が建っていた。


 あれがハーティの像か…。僕が転生する前に会ったハーティはもっと幼く見えたけど、この像がハーティ本来の姿なんだろうなぁ。


「さぁワークよ。これより天性の儀を行う。プレートを握り、創造の神ハーティに祈りを捧げるのだ!」


 僕はアルマンから渡されたプレートを両手で握りしめ、ハーティの像の前で祈った。


「この世界を創りし神よ。あなたに祈りし者、ワーク=ラインハルトに祝福を与えたまえ!」


 アルマンがそう言うと僕の周りを白い光が包み込む。そしてその光は僕の手の中にあるプレートへと吸い込まれていった。


「儀式は終わった。ワークよ、プレートを確認するがよい。」


 僕は握っていたプレートを確認した。

 そこには光る文字で


『ワーク=ラインハルト』


 自分の名前と


職業ジョブ:見習い レベル1』


 が表示されていた。


 見習い…なんだこれ?RPGでもこんな職業ジョブ聞いたことない…。とりあえずアルマンに聞いてみるか…。


「ワークよ、なんと表示されているのだ?」

「えっと…【見習い】って書いてあるんですけど…これ、どういう職業ジョブか分かりますか?」


 【見習い】という言葉を聞いた途端、アルマンはその場で固まり、エミリスはクスクスと笑いだした。


「あんた終わったわね。よりにもよって【見習い】なんて…。」


 えっ何、見習いってそんなヤバイの…?


 アルマンはしばらく固まっていたが、咳払いをしてようやく説明してくれた。説明する顔は深刻な表情を浮かべていた。


「ワークよ、お主には説明していないことがあってな…。というより、説明する必要がないと思って言わなかったのだか…。」


 そしてアルマンはもう一度咳払いをした。よほど深刻なことらしい。


職業ジョブの中にはな、国や種族によっては"はずれ職"と呼ばれるものが存在するのじゃ。その"はずれ職"になるものは一握りしかいないと言われるほど珍しいのじゃ。じゃが、お主のいった【見習い】は""2…。」

「……ということは…」


 アルマンは首を横に振った。


「お主は本当に運が悪い…。"はずれ職"の中でも最弱の【見習い】を引き当ててしまうのじゃからな…。残念じゃが…冒険は諦めた方がいいじゃろう…。」


 僕はそれを聞いて言葉を失った。


 ……僕の人生、さっそく詰んだっぽいです…。

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