第9話

「早速で悪いけど、カーバンクル。国王の元へ行くから私に付いて来て頂戴」

「キュイ!」

「魔力を抑えて小動物のようにしておいて」

「キュイ!」


 見た目は額に宝石の埋まったリスのようでとても可愛らしい。頬ずりしてくるとつい撫でてしまうわ。


 私は上機嫌になりながら転移魔法で王の元へと移動した。移動した先はちょうど国王の部屋のようだ。ゆったりと椅子に座り、横にいる女とお茶を飲んでいるようだ。


「誰だっ!! 貴女は、ムロー様! 今日はどういったご用件ですかな?」

「ダンジョンが完成したわ。そうね、人間世界でいうと二年くらい掛ったのかしら? 明日、ダンジョンと地上を繋ぐ扉を作るわ。今日はダンジョンが完成をした知らせに来ただけ」

「ファルスの言っていた事は本当でした。ダンジョン建設が始まって以降、王都での暴力事件は日に日に数を減らし、治安は良くなっていくばかりです。助かっております」

「……そう。なら良かったわ。ではね」


 私はそう言うとまた自分の部屋に転移して戻ってきた。明日、扉を作ってしばらく様子を見た後、新しいダンジョンを作るためにまた旅に出ようと考える。


 次は瘴気の濃い場所で難攻不落のダンジョンを作っても面白そうだと考えながら眠りについた。



 翌日、私は約束通り、地上に扉を作った。


 岩を組んで作り上げたトンネルのような入り口。扉を作り、それなりの雰囲気を出す。


 扉はもちろん豪勢な扉にしたわ。扉を開けると地下へと続く階段になっている。


扉の横には立て看板と注意書きも忘れずに、ね。


『初心者用ダンジョン。怪我をしても自己責任』


 まぁ、無くてもいいような物ね。


 あとはギルドが何とかしてくれるでしょう。もちろん今回は初心者用のダンジョンなのでデスペナルティはないようにしてある。


 例え死んでも地上に戻される時に復活して終わり。その場合、荷物は全て置いたままになるので魔物達の物になるわね。


 そして死んだ人間は一度ダンジョンに取り込まれるので知識や経験が全て吸収されるの。知識の獲得に大いに役だってから怪我を全て治され地上へポイッと投げ捨てられるようにしたわ。


 人間も魔物も嬉しい限りよね。

 まぁ、死ぬような人間なんて滅多に居ないでしょうけれど。


 地上がざわついている様子。突如出来た扉に人々が取り囲むように立っている。


 私はこっそり認識阻害の魔法を掛けて人間達がどんな行動をするのか様子を窺っていると、ギルドの所長らしき人が冒険者を連れてやってきた。


「王様が言っていた初心者用ダンジョンか。このダンジョンはギルドの管轄になるだろう。どういう風に扱うかは入ってみて、だな。初心者という位だから難易度は低いのだろう。お前達、入ってみるぞ」

「ギルド長、ワクワクしますね。初ダンジョン踏破が俺達になるなんて」

「では入ってみる。他の者は誰も入らないように見張ってくれ」

「了解!」


 ギルド副長という人間が扉の前で仁王立ちしている。


 私は認識阻害を掛けているため、ギルド副長が邪魔で彼等と一緒に入れなかった。


 仕方がないので転移魔法でダンジョンの中に入る。


 地下一階に降りた彼等は興味深そうに剣を鞘から取り出し、戦闘態勢を取りながら進んでいる。


「この階はスライムだけか」

「簡単ですね。これなら子供でも倒せそうだ」

「ただのスライムじゃないかもしれないぞ?油断はするな」


 慎重に何匹かのスライムを倒しているようだがスライムはスライムだ。

 緊張しながらスライムを退治している彼等を見ていると笑ってしまいそうになる。


「ギルド長、あの扉は何でしょうか?」

「……管理扉?」

「このダンジョンを管理する時に使う扉なんだろうか?この先に管理者がいるのかもしれないな」「引き手もノブもない。こっちからは入る事が出来なさそうですね」

「あぁ。余程の事がない限りこの扉は開かれないんだろうな」


 彼等はコンコンと扉を叩いたり、魔法をぶつけたりしているが、扉はビクともしないので諦めたようだ。彼等はそのまま地下二階へと進んでいく。


「地下二階は一角兎と魔鳥のようですね」

「あぁ。この大きさなら街の外に狩りに出なくてもここで狩れば安全に食糧が確保出来そうだ。王国の市場に出回っている一角兎と魔鳥の価格が暴落するだろうな」


「魔鳥!美味いですよねっ。俺、丸焼きが一番好きですね。あれが安価になるなら喜んでここに毎日狩りに来てもいい」

「ははっ。そうだな」


 彼等は楽しそうに狩りをしている。魔鳥と兎を一羽ずつ腰に下げて持って帰るようだ。


 因みにこのダンジョンは初心者向けなので倒した魔獣をそのまま放置していると、死んだ魔獣はダンジョンに吸収されてしまう仕様だ。


 ダンジョン外で魔獣を倒したら血の匂いで他の魔獣を呼び寄せる場合もあるため持ち帰る時は魔法で血を洗ったり、消臭剤なる物を周りに振りまいているらしい。


 魔物を生み出す側からしたら気にもしないが、人間にとっては死活問題なのね。


 彼等が楽しそうに狩りをしてくれるおかげでこの国の話が少しずつ知識として入ってくる。


 この国のようなシステムをファーストは作ろうとしているのかしら?それはそれで楽しそうね。


 私もダンジョン内で都市というものを作ってみてもいいかもしれない。


 彼等はフロアを確認した後、地下三階へ降りて行った。三階はゴブリンの巣。難しくはないけれど、弱い人間にとっては数を倒すのが面倒だと思うわ。


「ギルド長、ここは先ほどとは違った作りになっていますね」

「あぁ。この感じ。ゴブリンの生息しやすい環境なのだろう。見てみろ、あっちの巣にはゴブリンの子が既にいる。ここは定期的に来て数を減らしておかないと面倒だろうな。あと、女は気を付けないとゴブリンに連れ去られる可能性がある」

「そうですね。ここは要注意ですね」


 ギルド長が説明しながら歩いているので私もそうなんだーと感心しながら付いていく。


 人間の女がゴブリンに狙われるのは知らなかったわ。まぁ、あの繁殖力を考えれば仕方がないわね。


 ギルド長とAランクの冒険者ガルファロという人間は雑談をしながら襲ってくるゴブリンを倒していく。


 彼等にとってゴブリンは朝飯前なのだろう。彼等はまた管理の扉をコンコンと叩いて調べた後、地下四階へと降りていった。

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