第3話

 そんなある日。


 私の元に何十年かぶりにファーストがやってきた。魔法で転移してきたという方が正しいかな。


 ちょうど私はダンジョンの自室でのんびりとくつろいでいる最中だった。


「ウォール、久しぶりだな」


 久々に見たファーストは精悍な顔つきとなっていて頭の上には立派な角が生えて、背中には立派な黒い羽があり、すっかり魔王になっていた。


 黒い羽に合わせた衣装はどうやって作ったのだろうか?


 私は久々に会ったファーストに驚きながらもこうして私の事を忘れていなかった事に嬉しさを覚えた。


「久しぶりね。ファースト。元気にしていた? 立派な魔王になって、私、びっくりしちゃったわ。今日はどうしたの?」


 私は久々に会ったファーストに聞いてみた。


 百数十年ぶりかしら?

 全然会っていなかったのに突然にやってきた理由はなんだろう?


「ウォール、ここのダンジョンは完成したんだろう?」

「ええ、つい最近完成したわね。それがどうしたの?」

「なら新しい場所にまた作ってくれ。どうやら瘴気が濃すぎて地下から吸うしかなさそうなんだ」

「あら、ファーストの作る魔族じゃ役に立たないの?」

「残念ながら、な。ダンジョンを作ればダンジョン全体で瘴気を吸い込むだろう?」

「ええ、ダンジョンが大きければ大きいほど瘴気を沢山吸う事は出来るわ。まあ、ここもダンジョンが完成して人間もよく来るようになったし、新しい場所に移動してもいいわ」


 もちろん定期的に転移して種を蒔く事は必要だが。私は部下のリザードマンを呼びつける。


「ウォール様、いかがなされましたか?」

「リザードマン、私は新たなダンジョンに取り掛かる事になるからここの管理を任せたいわ」

「畏まりました。ウォール様、ここの管理はお任せ下さい」


 私はリザードマンにダンジョン権限の一部を渡す。特にする事はないのだが、種を定期的に各フロアに蒔いて貰わなければならないのだ。ダンジョンの保守、点検をしやすいようにこっそり全ての階に繋がる通路を作った。


 ダンジョン自体は土の中の瘴気を取り込み、ある程度は自動修復されるようになっているので手を加える必要はないが、大きく壊れた時など、何かと管理する必要があるのだ。


「さて、リザードマンに管理を任せたし、いつでも出る準備は出来ているわ」

「なら、すぐに向かおう。ウォール、お前は死ぬまでこの仮面を付けていろよ。お前の魔力は人間と同程度だが、漏れている。だがその質が問題だ。その禍々しい魔力だとすぐに魔族だとバレるからな」


 ファーストがそう言って私に差し出した仮面。


 普段から一人作業、そしてダンジョンに住んでいるため気にはしていなかったけれど、瘴気由来の魔力が駄々洩れだったようだ。


 ファーストは魔王になれるほど強くなったけれど、私は人間より少し強い程度しかない。


 魔法もある程度は使えるようにはなってきたけれど、やはり人間より使える、ぐらいにしか育っていない。


 まあ、際限なく瘴気を取り込む事が出来るのだから生きてさえいればそのうち誰よりも強くなれるとは思う。


 私って楽観主義者なのよね。


「この仮面、素敵ね。早速付けるわ!」


 私はファーストから受け取ってすぐに仮面を付けた。確かに魔力漏れがピタリと無くなった気がする。


 私が上機嫌になっていると、リザードマンが今にも泣き出しそうな顔をしている。


「あら、リザードマン。どうしたの?」

「ウオール様。仮面、とても似合っております。ですが! 香しいウォール様の魔力を感じることが出来ないとなるとダンジョンに住む者達は皆悲しむに違いありません! いやしかし美しいウォール様なら美醜の面でも人間に狙われても可笑しくはない。やはり仮面をしていた方がいいのか……」


「もうっ。何を言っているのかよく分からないわよ。ね? ファースト」

「……。グダグダ言ってないで行くぞ」

「はーい。じゃぁ、リザードマン後は宜しくね」

「かっ、かしこまりました」


 ファーストはそう言うと、私に手渡した仮面と同じような仮面を取り出し、顔に嵌めた。


 そして人間に変身し、何処かへ転移することになった。


 ファーストは細かい事を何も説明せずに転移したものだから転移先で驚くことになったのは言うまでもない。

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