琴音

プロローグ:琴音の告白

 私の名前は琴音。


 この物語を始める前に、皆さんに知っておいてほしいことがあります。

 私は、母親からの激しい虐待からのサバイバーです。


 長い間、この事実を誰にも打ち明けることができませんでした。恥ずかしさや恐れ、そして自分自身への不信感が、私の口を堅く閉ざしていたのです。しかし今、この物語を通して、私の経験を共有する時が来たと感じています。


 私の幼少期の記憶は、恐怖と痛みで満ちています。母は、私が生まれた瞬間から私を憎んでいたようです。「あんたなんか生まれてこなければよかった」という言葉を、幼い頃から何度も聞かされました。


 母の虐待は巧妙に隠され、父にさえ気づかれませんでした。私は孤独に耐え続けるしかありませんでした。そのことが原因で、「自分は死んだ方がいいんだ。自分はいらない人間なんだ」と思いつめるようになりました。自己肯定感は限りなく低くなっていきました。


 最も恐ろしかった経験は、母が実際に私を殺そうとしたことです。


 初めてそれが起こったのは、私が5歳の時でした。母は私の首を両手で絞め始めました。息ができず、視界が暗くなっていく中で、私は必死に母の手をほどこうとしましたが、幼い私には力が足りませんでした。意識が遠のいていく瞬間、死の直前でやっと母はその腕の力を緩めてくれました。


 しかし、それは始まりに過ぎませんでした。母はことあるごとに私を殺そうとしてきました。私はその度にそれに必死に抗ったのです。


 しかし幼い私はそれは自分が悪いから、母がそのような罰を与えるのだと誤った認識をしていました。……私はどうしても母から愛されたかった。だから母が心の底から私を殺そうとしている事実を本当だと信じたくありませんでした。


 だからは私は母に認められるために必死に勉強を頑張りました。周囲から天才少女の名を欲しいままにしました。しかし母は一度も私を認めてくれませんでした。私が一番欲しかった母からの愛は、決して得られませんでした。決して、です。


 私が10歳の時、母は死にました。その瞬間、私はこれまでに感じたことのない解放感と歓喜を感じました。しかし、そのことによって「母親が死んで喜ぶ冷たい娘」という世間からのレッテルを貼られることになってしまいました。


 それからも、私はずっと孤独に生きてきました。父とは表面上の関係しか構築できなかったからです。私は、自分には価値がない、誰からも愛される資格がないと信じ込んでいました。


 しかし、高校で出会った陽菜と美月が、私の人生を大きく変えることになりました。2人との出会いによって、私は徐々に愛に目覚めていったのです。


 この物語は、私が自己否定の闇から抜け出し、愛を見出していく過程を描いています。それは決して平坦な道のりではありません。葛藤あり、挫折あり、そして喜びあり。でも、その全てが私を今の姿に導いてくれました。


 読者の皆さんには、偏見を持たずにこの物語を読んでいただきたいと思います。虐待のサバイバーの生活は、想像以上に複雑で難しいものです。でも、それでも愛し、愛される価値はあるのだということを、この物語を通じて感じ取っていただければ幸いです。


 そして、同じように苦しんでいる方がいらっしゃれば、この物語があなたの希望になれば嬉しいです。あなたは一人じゃない。必ず、あなたを受け入れてくれる人がいる。そう信じてください。


 さあ、私の物語の幕を開けましょう。虐待のサバイバーである私と、かけがえのない存在となった美月と陽菜。3人の複雑で美しい関係性が、今ここに始まります。

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