美月

プロローグ:美月の告白


 皆さん、こんにちは。私の名前は美月。これから私の物語を語るにあたって、まず皆さんに知っておいてほしいことがあります。


 私はアジェンダーです。


 この言葉を聞いて、戸惑う方もいるかもしれません。簡単に説明すると、アジェンダーとは、特定の性別を持たない、または性別そのものを持たないと自認する人のことを指します。つまり、私は自分を女性とも男性とも、あるいはその中間とも感じていないのです。


 この事実に気づくまでには、長い時間がかかりました。幼い頃から、何か「違う」という感覚はありました。女の子らしい服を着ることに違和感を覚え、女の子として扱われることに居心地の悪さを感じていました。かといって、男の子になりたいわけでもありませんでした。


 高校時代、私はこの感覚の正体が分からず、ただ自分はのだと思っていました。周りの女の子たちが当たり前のようにこなすメイクや髪型の話についていけず、恋愛の話題になると心の中でため息をついていました。


 そんな中で出会ったのが、陽菜と琴音でした。2人との出会いは、私の人生を大きく変えました。彼女たちは、私の「違う」部分を受け入れてくれました。しかし、当時の私にはまだ、自分がアジェンダーであるという認識はありませんでした。


「アジェンダー」という言葉を知ったのは、偶然手に取った本の中に、その言葉を見つけたからです。その瞬間、今まで霧の中にいたのが、突然晴れ渡ったような感覚に襲われました。、と。


 しかし、その発見は新たな不安も生み出しました。これを誰かに話すべきなのか、社会は私を受け入れてくれるのか、陽菜と琴音との関係はどうなるのか。様々な疑問と不安が私を苦しめました。


 それでも、自分自身を理解する新しい扉が開いたことは確かでした。少しずつ、自分らしさを探っていく日々が始まりました。服装や髪型を通じて自己表現を模索し、アートを通じて自分の内なる世界を表現しようとしました。


 大学に進学し、アートの世界でキャリアを築き始めた今、私はようやく自分自身を受け入れることができました。そして、この物語を通じて、皆さんに私の旅を共有したいと思います。


 この話は、単に私個人の物語ではありません。それは、自分自身との和解の物語であり、多様性を受け入れることの大切さを伝える物語です。そして何より、愛の形は一つではないということを示す物語なのです。


 陽菜、琴音、そして私。3人の関係は、世間一般の基準では理解されにくいかもしれません。でも、それこそが私たちの選んだ愛の形なのです。


 これから語る物語は、決して平坦な道のりではありません。葛藤あり、挫折あり、そして喜びあり。でも、その全てが私たちを今の姿に導いてくれました。


 皆さんには、偏見を持たずにこの物語を読んでいただきたいと思います。そして、もしかしたら、皆さん自身の中にある「違う」部分にも目を向けるきっかけになるかもしれません。


 私たち一人一人が、ありのままの自分を受け入れ、互いの違いを尊重し合える社会。そんな社会の実現に、この物語が少しでも貢献できれば幸いです。


 さあ、私たちの物語の幕を開けましょう。アジェンダーの私、美月と、かけがえのない存在である陽菜と琴音。3人の複雑で美しい関係性が、今ここに始まります。

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