第4章:将来への不安と絆の試練(大学3年)

 時が流れ、美月、陽菜、琴音は大学3年生となった。それぞれが自分の道を歩み始め、3人の関係にも少しずつ変化が訪れていた。


 美月は、その才能を認められ、有名画廊でのインターンシップの機会を得た。しかし、そこで彼女を待っていたのは、厳しい現実だった。


「君の絵には魂が足りない」


 画廊のオーナーは冷ややかに言い放った。


「技術は素晴らしいが、本当に表現したいものが見えてこない。きみは女性らしさが描きたいのかい? それとも男性らしさなんかい?」 


 突然のこの言葉に美月は打ちのめされた。この言葉が美月の内面の問題を正確に突いていたからだ。彼女は、陽菜と琴音との関係が、自分の芸術的表現を制限しているのではないかと悩み始めた。


 一方、陽菜はオリンピック選手を目指すか、一般企業に就職するかの岐路に立たされていた。スポーツの道を極めたい気持ちと、安定した生活を送りたい気持ちの間で揺れ動いていた。


「私、本当にオリンピックを目指していいのかな」


 ある日、陽菜は琴音に電話で相談した。


「でも、普通のOLなるのも何か違う気がして……」


 琴音は陽菜の悩みに耳を傾けながら、自分自身のキャリアについても考えを巡らせていた。彼女は留学を考えるようになっていた。海外の大学院で学びたいという願望が強くなっていたのだ。しかし、美月と陽菜との関係を考えると、踏み出す勇気が出なかった。


 夏の終わり、3人は久しぶりに会う機会を得た。

 しかし、再会した時の空気は、どこか以前とは違っていた。


「ねえ、みんな元気にしてた?」


 陽菜が明るく声をかけたが、その笑顔には少し強張りが見えた。

 美月は黙ったまま、遠くを見つめていた。

 琴音は何か言いたげな表情を浮かべながら、ため息をついた。


「私たち、少し話し合う必要があるんじゃないかな」琴音が静かに切り出した。


 3人は公園のベンチに腰を下ろした。夕暮れ時の柔らかな光が彼女たちを包み込む。


「私ね、留学を考えているの」


 琴音が告白した。

「え……」


 陽菜が絞り出すような声を上げた。

 美月は黙ったまま、地面を見つめていた。


「実は私もこのままオリンピックを目指すか迷ってるんだ」


 陽菜も自分の悩みを打ち明けた。

 沈黙が流れた後、美月がようやく口を開いた。


「私……もしかしたら、2人と離れる必要があるかもしれない」


 その言葉に、陽菜と琴音は驚きの表情を浮かべた。


「どういうこと?」


 陽菜が動揺した様子で尋ねた。

 美月は涙を堪えながら説明した。

 自分の芸術表現の行き詰まりと、3人の関係が自分を縛っているのではないかという不安を。


 琴音は黙って美月の手を握った。

 陽菜は混乱した表情を浮かべながらも、2人の方に寄り添った。


「私たち、それぞれの道を歩む必要があるのかもしれないね」琴音が静かに言った。


 その夜、3人は例年のように一緒に過ごすことはなかった。それぞれが自分の部屋に戻り、一人で夜を過ごした。


 翌日、3人は再び集まった。昨日の重苦しい雰囲気とは打って変わって、それぞれが決意に満ちた表情を浮かべていた。


「私たちの関係は特別だけど、だからこそ、お互いの成長を邪魔しちゃいけないと思う」

 琴音が口火を切った。


「うん、それぞれが自分の道を歩むことで、もっと素敵な大人の女性になれるはず」


 陽菜も同意した。

 美月が静かに口を開く。


「でも、私たちの絆は決して切れない。それだけは信じてる」


 その言葉に、陽菜と琴音は顔を上げ、美月を見つめる。3人の目には、決意と不安が入り混じった複雑な感情が宿っていた。


 琴音が自然と右手首に触れる。そこには、美月が作ったブレスレットが光っていた。


「そうね。このブレスレットが、私たちの絆の証だもの」


 陽菜も左手首のブレスレットを見つめる。


「うん。私、一度も外したことないんだ。シャワーの時も、試合の時も」


 美月も自分のブレスレットを撫でる。


「私も。絵を描くときも、いつもこれをつけてる。3人の思い出が、私に力をくれるの」


 3人は同時に立ち上がり、互いに向き合う。

 そして、言葉を交わすことなく、強く抱き合った。


 抱擁の中で、3つのブレスレットが触れ合い、しゃん、と小さな音を立てる。

 その音は、まるで3人の心臓の鼓動が同期するかのようだった。


 陽菜の頬を涙が伝う。


「離れ離れになっても、このブレスレットがあれば、2人といつもつながってる気がする」


 琴音も目に涙を浮かべながら言う。


「そうね。どんなに遠く離れても、このブレスレットを見れば、みんなの顔が浮かぶわ」


 美月はブレスレットの内側に刻まれた暗号を思い出す。


「私たちだけの言葉。これがある限り、誰にも私たちの絆は壊せない」


 3人の抱擁がさらに強くなる。涙が頬を伝い落ちる中、彼女たちは新たな誓いを立てた。


「それぞれの夢を追う」美月が言う。

「でも、決して諦めない」陽菜が続ける。

「そして、必ずまた3人で歩む日が来る」琴音が締めくくる。


 3人は顔を上げ、互いの目を見つめ合う。そこには、強い決意と希望が輝いていた。


「約束ね」3人が同時に言う。


 その瞬間、夕日が3人を優しく照らし、ブレスレットが夕陽に輝いた。それは、まるで彼女たちの新たな誓いを祝福しているかのようだった。


 これからの道のりは決して平坦ではないだろう。しかし、3人は確信していた。このブレスレットが、そしてその中に込められた想いが、どんな困難も乗り越える力を与えてくれると。


 その日以降、3人の関係は新たな段階に入った。頻繁に会うことはなくなったが、それぞれの成長を互いに応援し合う関係となった。時には寂しさに襲われることもあったが、それ以上に、お互いへの信頼と愛情が彼女たちを支えていた。


 大学3年生の終わりが近づく頃、3人はそれぞれの道を歩み始めていた。美月は自分の芸術スタイルを模索し始め、陽菜はオリンピック出場を目指して猛練習を開始し、琴音は留学の準備を進めていた。


 彼女たちの前には、まだ多くの試練が待ち受けていたが、3人の絆は以前にも増して強くなっていた。それは、距離を超えて、時間を超えて、彼女たちを繋ぐ、かけがえのない絆だった。

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