手紙

手紙

 拝啓


 君へ。


 健康そうでなにより。

 あの夏の日が、懐かしいよ。



 ――ああ、会いたいな。


 思い出せば、去年の夏、俺たちは多くのことを経験した。


 誰も信じてくれないような、奇跡ともいえる日々を過ごした。


 とめどなく想いが溢れてくるのだが、それをどういう言葉に表せばいいのかわからない。行動で示すのであれば、ただ一言「会いたい」だ。


 彼女とまた手を繋いで星空を見上げたい。


 なにを書こうか迷って、ペンをくるくると指の間で回す。


 ――会えるのを楽しみにしている。


 悩んだすえ、素直に気持ちを記した。


 俺は短い手紙を書き終えた。もしかしなくても、もらった手紙よりもずいぶん短い返事だが、それ以上書くことが見つからない。


 うーんと伸びをしてから窓に視線を向ける。曇った窓ガラスを袖口でごしごし拭いて、外を見た。


 まだまだ、季節は寒い。


 それでも、膨らんできた梅のつぼみから春の足音を聞いたような気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る