エピローグ①
「――では、これを以ってオパール・イレイン・フォン・グランフェルト陛下、並びにルビアス・フォン・エーデルハイム閣下のご婚約を宣言いたします。
どうぞ幾久しくお二人が御手を取り合い、歩んでゆかれますことを祈って」
厳かに、そして温かく締めくくった司祭のことばに、見守っていた面々からわあっ、という歓声と拍手が巻き起こる。皆の祝福に包まれて微笑み合う二人は大変幸せそうで、やはり参列者である理咲は心がぽかぽかした。……のだが、
「陛下、おめでとうございます。やっぱりとってもお似合いですねえ」
「まあリサ、ありがとう。ほらルビアス、当代の賢者殿よ。わたくし専属の薬師さんでもあるの、どうぞよろしくね」
「、へっ」
「ああ、君がそうなのか! 初めまして、ご挨拶が遅くなって申し訳ない。つい先日まで国外に出ていたものだから……陛下共々よろしく頼む!」
「は、はい、はじめまして……こちらこそ……」
普通にあいさつしただけのはずが、そのままみんなの前で面通しするハメになった。きらーん、と光の粒が輝くほどにこやかに、なおかつ礼儀正しく握手を求めてくれるルビアスに、若干引きつった笑顔で応えつつ思う。何の打ち合わせもしてないのにすぐ合わせられるなんて、王侯貴族のひとってスゴイ。
(……まあ、そのくらいじゃなきゃ、一ヶ月以上も他人になり切って生活できないよなぁ)
こっそり肩越しに振り返った先では、おそらく同じことを思っているだろうノルベルトが沈痛な表情で頷いてくれていた。ですよね、はい。
――さて、召喚の儀をめぐる大騒動から、時は流れてはやひと月。その間、王城では大小様々な変化があった。
まず、オパールを退位させて王太子を即位させ、後見人として実権を握ろうとした宰相たちが軒並み更迭された。領地運営や家庭環境で困っているなら、中央は気にせずそちらに専念なさい♪ と、すっかり元気になった現王陛下に肩ポンされた結果である。もっともクーデターに加担しかけたわけで、より重い刑に問われなかったのは運が良かった。多分。そう思っておいた方がいい。
続いて、外交官として隣国に赴いていたルビアス卿が帰国した。赤みがかった金髪に明るい碧眼、爽やかかつ凛々しい正統派の美青年である。気さくで明るい性格の彼は、前々からオパールと懇意だったそうで、体調が安定したのを機に正式に婚約する運びとなった……というのが、表向きの事情なのだが。
「現王三傑、っていうから、最後の一人はどこにいるのかと思ってたんですけど……まさかずっと一緒にいたとは……」
「……お教えできず申し訳ない。かの御仁が殿下の影武者ということは、陛下を含めたごく一部の方しか知りませなんだゆえ」
「いや、だから、ノルベルトさんは悪くないんですって」
婚約の儀式が終わって、参列者は徐々に解散しつつある。そんな中、やや疲れてしまった理咲は人の流れに逆らって歩いていた。周りに人気がなくなった所で、ついて来てくれたノルベルトが心底申し訳なさそうに謝って来る。だからもう良いんだってのに。
――ルビアス卿、実は現王三傑のひとりである。そしてその称号は『
「召喚されてきた子が性格に問題あって、王家のひとに言い寄って大変だったこと、これまでもあったんでしょ? ついでにクーデターの気配まであったんだから、それに備えて動くのは当然ですって。最初から殿下に変身し続けてるとは思わなかったけど」
「そう言っていただけると……陛下によりますと、本物のクリスティアン殿下もお元気で過ごされているそうです。ルビアス殿の後任として」
「ああ、外交官ですっけ? 忙しそうだけどやりがいあるんだろうなぁ」
相変わらず申し訳なさそうな隊長殿だが、ルビアス本人はネタバラししたとき丁重に謝ってくれたし、星蘭の守護者が復活しかけたのからも護ってくれた。あの時のセリフはそういう意味だったのかと納得したものだ。だからもう、理咲は全然気にしていなかった。
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