第25話:呪い前線異常アリ⑧


 ふわっとベッドの周りが光って、風もないのに淡い色合いの髪がなびく。

 いつしかオパールの周りを覆うように、光で出来た薔薇が出現していた。絵のように平面的ではなく、立体的で存在感のあるものだ。どこからか良い香りまでしてきたような気がして、思わずふんふんと周りの空気を嗅いでしまった。

 「これがわたくしの持っている、魔力が形を持ったもの。グランフェルトの王族はね、生まれつき他のひとよりも魔力の容量が多いそうなの。だからそれを活かして、代々国全体を覆う結界を創って維持する、ということをやっているのだけれど」

 国王が健康で、何ごともなく結界が守られている間はいい。しかしながら人間、生きていれば色々なことがあって当然だ。怪我も病気もするし、場合によっては年単位で長引く養生が必要になったり、最悪命を落としてしまうことだってある。そうなった時に速やかなフォローをするための仕組みも、しっかり整えられていた。

 「国王が急に亡くなったとか、その後に立った次代がまだ幼い、とか。もしくは生きてはいるけれど、健やかな生活を望めないくらい身体が弱いとか……とにかく、結界を創ることが出来ない場合ね。グランフェルトでは何百年に一回、という周期なのだけれど」

 「基本的に結界創成の術は、ここの王族だけしか使えない。だけど例外として、異なる世界の人の魔力には反応するの。そもそも最初にここいらを平定して国を創ったとき、力を貸してくれたのが異世界人だった、って話だし、その影響でしょうね」

 「わたくしの不調はね、身体そのものというより、魔力が歴代でもちょっと強すぎるらしくて……今こうやって外に出ているのが、収まりきらなくて溢れた部分なの。これを制御できないから、器の方に影響が出てしまっている、という状況ね」

 「ああ、それで星蘭が呼ばれたんですね! 王様の代わりに結界を張る役目をする人が要るから……、あれ? でも」

 溢れた光が棘のある薔薇の姿なので、オパール本人を傷つけているのが視覚的にもよく分かる。理咲はいったん納得しかかって、けれどそこではた、と止まってしまった。よそから応援を呼ばなくても、身内が代理をすればいいのでは?

 そんな気持ちを目線に乗せて、傍らのノルベルトを見上げてみる。目が合った隊長殿は、それはもう複雑そうな顔つきをしていた。頭が痛いというか、如何ともしがたいというか。

 「……まことに思っておられる通りです。が、政の世界というのは、いつの時代も一枚岩ではありませぬゆえ」

 「まつりごと、――政治? って、じゃあ誰かが王様押しのけて、国の実権握ろうとしてる!?」

 「おっ、リサちゃんすごい! ロイくんははっきり言わなきゃ気付かなかったのに!!」

 「察しが悪くてすんません……でも、失礼ですけどホントに? クーデターじゃないっすか、それ」

 「まさしくそれだ。まあ実際には、武力に訴えるような下手は打たんだろうな。陛下の御不調を全面に立てて、あくまでも殿下を擁立・補佐する名目で、譲位を推し進める算段だろう」

 つい声が大きくなったが、元々ここは寝室だ。窓のない通路があったように、何かしらの防音対策はしてあるのだろう。その証拠に、ポーペンティナは屈託なく褒めてくれたし、不安そうなロイも解説を入れてくれたバルトも、誰もそのことには言及しなかった。ひと通り皆が発言を終えたところで、黙ってうなずいていたラウラが再び口を開く。

 「幸い優しすぎるところはあるけど、殿下だってお馬鹿じゃないからね。周りの貴族連中が妙な動きをしてるのは把握済みだし、その上で角が立たないように譲位派を誘導してくれてるの。あの名前だけ聖女の相手も大変でしょうけど」

 「で、ですね……じゃあその、王様たちは? これからどうするんですか」

 何だってそんな大変な時に呼び出された聖女候補があいつなの、と、何度でも頭を抱えたくなるがぐっとこらえる。全力で平静を保って問いかけてみたところ、我が意を得たりと瞳を輝かせた魔導師殿から、大変良い笑顔が返ってきた。

 「良くぞ聞いてくれました! 改めまして、小鳥ちゃんにお願いがあります。陛下の魔力を見てて、何か感じない? あなたの得意分野、どうにか活かせないかしら」



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