第23話:呪い前線異常アリ⑥



 「はい、ただいま。あいさつが遅くなってごめんなさいね、ちょっとバタバタしてたから」

 いたって明るく返事しながら、ラウラはほとんど明かりのない室内をすたすた横断する。幕の側にたどり着き、そっとめくって中を確認すると、ほっとしたように表情が緩んだ。

 「……うん、顔色は良いわね。いま隊長さんと、他に何人かお客さんが来てるんだけど、会えそう?」

 「ええ、大丈夫。通してさし上げて」

 「かしこまりました。というわけでみんな、入ってきて良いわよー」

 「あ、はいっ」

 こいこいと手招きされ、足音を立てないように急いで移動する。揃ったところでラウラが幕を持ち上げ、一番手前にいた理咲に向かって頷いてみせた。

 「じゃあ小鳥ちゃんからね。普通な感じで話してくれて大丈夫だから」

 「ふつう……?」

 「もう、ラウラ。あんまり脅かさないであげて」

 「だってねえ、うちの代表ってでしょ? まあ殿下も頑張ってくれてるけど」

 「、へっ」

 今何か、恐ろしい言葉を聞いたような。うっかり声に出た理咲だが、そのときには既に幕の中に入ってしまっていた。内部はさらに薄暗くて、中央に大きな寝台が置いてあるのが分かる。先ほどうっすら見えた台のようなものはこれだったか。

 「……ごめんなさいね、『猫』さんは昔からイタズラ好きなの。変に緊張させないように、って気遣いだとは思うのだけど」

 その、巨大と言っていい規模のベッドの上。半身を起こした状態で、大層申し訳なさそうにそう言ってきたのは、まだ若い女性だった。

 光源がほとんどない中でも分かるほど、繊細で優しげな顔立ちの綺麗な人だ。長い髪は多分、さっき別れたばかりの王太子殿下と同じ金色か、似たような淡い色合いだろう。ゆるく波打つその向こうから、ほんわりした柔らかい笑みを湛えて口を開く。

 「初めまして。グランフェルト王国、三十八代目の国主――つまり、今の王様ね。オパール・イレイン・フォン・グランフェルトと言います」

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