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 ふと、山崎は気になった。上田は増川小学校が楽しかったんだろうか? 宇藤原小学校の方がよかったんだろうか?


「増川小学校では、どうだった?」

「楽しかったけど、やっぱり宇藤原小学校の方がいいな」


 やはり、宇藤原小学校の方がよかったと思われる。そりゃあ、小学校の6年間のうち、5年間通った学校の方がいいに決まっている。山崎にもその気持ちがわかる。後の3人はどんな気持ちだったんだろう。同じ気持ちなんだろうか?


「そうか」

「色々あったけど、閉校になって、残念だね」


 5人とも、残念な気持ちでいっぱいだ。本当はここで卒業したかったのに、それができなかった。全ては自分たちが悪くない。この村が過疎化したのが原因だ。


「うん」


 と、車は広い空き地にやって来た。そこには石碑がある。それを見て、山崎は気が付いた。ここが宇藤原小学校の跡のようだ。今はただの空き地にしか見えないが、ここに確かに宇藤原小学校はあった。だが、そんなものなどなかったかのように、この辺りは静まり返っている。この辺りには何件かの民家があったものの、みんななくなってしまった。


「あっ、宇藤原小学校の跡って、ここだったかな?」

「ここだここだ!」


 車は空き地の前に停まった。5人は車から降りて、空き地に立った。


「久しぶりにやって来たね」

「うん」


 上田は寂しそうだ。もうここには石碑しかない。小学校は残せなかったんだろうか?無念でたまらない。残っていれば、思い出の場所として、いつまでも残っていたのに。


「もう石碑しかないんだね」

「ああ。道の駅に再利用しようとしたんだけど、採算が取れないから計画がとん挫したんだ」


 かつて、宇藤原小学校の校舎は、道の駅として再利用しようという計画があった。だが、たとえ開業しても、客が集まらないだろうと思われたので、計画は頓挫してしまったという。


「そうなんだ」

「で、老朽化のため解体になって、そこには石碑ができたんだ」


 だが、ここにカツて母校があったという事をいつまでも残したいという卒業生の想いから、石碑が建てられたという。だが、こんな形でしか残っていないのを考えると、とても寂しい。やっぱり校舎自体が残ってほしいものだ。


「もうこんな形でしか、思い出は残ってないんだね」

「僕らの小学校なのに」


 井川は悲しくなった。父の開業医も含めて、小学校も思い出になってしまった。あまりにも寂しい。


「転校したとはいえ、僕らは宇藤原小学校の最後の生徒だと胸を張って言える」

「確かに!」


 だが、彼らは宇藤原小学校の生徒だったことを誇りに思っている。そして、閉校した時に宇藤原小学校の生徒だった。


 ふと、山崎は思った。ここはこんなに寂しくなってしまった。かつては村で、多くの人が住んでいたのを考えると、こんなに衰退してしまったと想像する人はどれぐらいいるんだろう。


「もうここには数えるほどしか人がいないんだね」

「うん。こんなに寂しくなるとは」


 井川は思った。あと何年、ここは集落でいられるだろう。人がいなくなるのはもう時間の問題では?


「あと何年、人が住んでいるのかな?」

「わからないけど、その日は近いかも」


 上田は校舎のあった場所を見た。なくなったとはいえ、ここにあった事は覚えている。


「宇藤原の名前さえなくなるんだね。残念すぎる」

「そうだね」


 と、そこに1人の老人がやって来た。その老人は、数少ない宇藤原の住人のようだ。


「あら、昇くんじゃない。それに、花子ちゃんも、猛くんに俊ちゃんに唯くんも」


 5人は振り向いた。そこには山崎の近所だったタエがいる。まさかここで再会するとは。


「うん。キャンプ場が閉鎖になると聞いたので、ここに来ました」

「そうなんだ」


 それを聞くと、タエは寂しくなった。タエもキャンプ場が閉鎖されるのを知っているようだ。


「本当は20年後にまた来ようと思ったのにね」

「そうだったんだね」


 だが、タエは別の意味で寂しくなったようだ。


「どうしたんですか?」

「もうすぐ、岡山にある息子夫婦の家に引っ越すんです」


 山崎は驚いた。タエも宇藤原を離れるとは。1人で住めなくなったんだろうか?


「そうなんだ」

「住み慣れた宇藤原を離れるのが残念でたまらないよ」


 タエは泣いてしまった。上田はタエの頭をなでるが、なかなか泣き止まない。住み慣れたここを離れるのが寂しいようだ。


「大丈夫ですか?」

「うん。だけど、受け止めないと」


 だが、タエは泣き止まない。その様子を見ていて、4人はタエがかわいそうになった。やっぱり生まれ育った宇都原で最期を迎えたかったんだろうな。


「うーん・・・」


 と、井川は何かを考えた。


「どうしたの?」

「どうにもならないんだね。こうしてまた1人住人が消えていく。そして宇藤原はなくなっていくのかな?」

「そうね」


 上田も悲しんでいた。生まれ育った故郷が消えるのは、とても寂しい事だ。だけど、乗り越えないといけない。


「受け止めないと。でも、なかなか受け入れられないね」

「うん」


 ふと、タエは小学校の先を見た。トンネルの途中に高架橋が見える。その高架橋の途中には、棒線駅がある。宇藤原駅だ。鉄道オタクの間では知られた、タワー駅だ。


「どうしたんですか?」

「ここに駅があったって、覚えてる?」


 5人もその駅は知っている。旅立つ時にはここで別れたな。だけど、路線は廃止になり、宇藤原駅は廃駅になった。


「ああ。宇藤原駅ね」

「ある意味有名だった」


 タエは寂しい思いで見ている。住民の請願によって、ようやくできた駅なのに、あっという間に廃止になってしまった。この駅はある意味有名だったので、残してあるそうだ。


「やっと鉄道が通った時には喜んだのに、廃止になってしまった・・・」


 タエは宇藤原駅が通る路線が廃止になった日の事を思い出した。

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