第27話

 ご飯にしようとは言ったものの、何を作ろう?


 しばしキッチンで悩んでしまった。


 昨日の残り物を出すわけにもいかないし。


 神埼さんならお酒を出しとけば喜んでくれそう(失礼すぎる?)だけど、今回のお客さんは異世界人……。


 できればこっちの世界の美味しいご飯を食べてほしいよね。


 それ如何で、こっちの世界の印象が変わりそうだし。



「それって結構、責任重大なのでは?」



 僕には荷が重すぎる。


 三つ星レストランのシェフでも呼ぶべきじゃなかろうか。


 もちろんそんなことはできないので、スマホを使ってちょっと料理レシピを検索することに。


 こういう時に料理レシピサイトってホント助かる。


 一流シェフと同等の味……とまではいかないけど、失敗することもないからね。


 今回は冷蔵庫の中身と相談して、春野菜のソテーと魚のフライ、さらに山菜ご飯を作ることにした。


 だけど、ちょぴり時間がかかりそう。


 先に畑で取れたエシャレットを食べてもらおうかな。


 リビングで待っているリノアちゃんのところにエシャレットを持っていったら、不思議そうに首をかしげられた。



「それは、ネギでございますか?」

「ラッキョウの一種で、エシャレットっていう野菜ですよ」



 ドヤ顔で説明してるけど、勘吉さんからの受け売りです。


 以前、勘吉さんにもらったのがすんごく美味しかったら、ウチの畑でも作ってみたんだよね。



「料理ができるまで少し時間がかかるので、これを先に食べていてください」

「わ、わかりました。でも、どうやって食べればよろしいのでしょう?」

「こうやって味噌を付けて……そのままイケます」



 パクッ、シャキッ。


 うん、美味しい。


 ラッキョウっぽい風味と味噌がすごくマッチしてるし、シャキシャキした歯ごたえがたまらない。


 しばし僕のことを不思議そうに見ていたリノアちゃんだけど、やがて小さなサイズのエシャレットを手にとってパクリと食べた。


 パッと驚いたような顔をする。



「……あ、パリッとした歯ごたえで美味しいです」

「でしょ?」

「このソースは何なのでしょうか?」

「味噌という大豆を発酵させたものです。日本の伝統食材というか」

「ふむふむ、なるほど……この味噌というソースがこの野菜の美味しさのミソなのですね……」

「え? 味噌がミソ?」



 しばし、ぽかんとしてしまう僕たち。


 ハッと気付いたリノアちゃんの顔が、みるみる赤くなっていく。



「ち、ちち、違います! そういう意味で言ったのでは……」

「あはは、うまいですね。食材なだけに」

「だ、だから違いますってば……っ!」

「それでは料理を作ってきますので、少々お待ち下さい」



 ぷーっとほっぺを膨らますリノアちゃん。


 怒りの矛先を見失ってしまったのか、となりでウトウトしていたモチをヒョイと抱えあげ、全身を撫で回しはじめる。


 モチ、完全にとばっちりである。


 だけど、流石神獣様に仕える巫女様。


 力加減がいい塩梅なのか、モチはすごい嬉しそう。


 後でその撫で方、教えてもらおうかな。


 てなわけで。


 リノアちゃんにエシャレットとモチを堪能してもらっている間に、パパッと料理を作ることに。


 春野菜のソテーに使った野菜は、アスパラガスに菜の花、春キャベツなどなど。フキノトウとウドも春が旬なんだけど、そっちは山菜ご飯に使わせていただいた。


 30分ほどで全部の料理が完成。


 早速盛り付けをして、リビングに持っていく。



「おまたせしました。料理ができました──って、あれ?」



 リビングにリノアちゃんの姿はなかった。


 ソファーはもぬけの殻。


 モチたちもいない。


 一体どこに行ったんだろう?


 ひとまず料理を置いて、家の中を探し回る。


 トイレかなと思ったけど、いなかった。


 玄関を見たところ、リノアちゃんの厚底靴がない。


 てことは外かな?


 庭にまわってみる。


 神獣様を撫でているリノアちゃんの姿があった。


 モチたちも一緒だ。



「ここにいらっしゃったんですね」

「断りなく席を外して申し訳ありません。しかし、リノアには神獣巫女としての務めがありますので……」



 リノアちゃんが手にしていたのは、小さなブラシ。


 どうやら神獣様のブラッシングをしているみたい。


 これも神獣巫女さんの大切な仕事のひとつなのかな?


 だけど、なんだかリノアちゃんは不満顔だ。



「どうしたんです?」

「ブラッシングは神獣様の体内にある魔力を活性化させる重要なものなのですが、ブラシだけでは効率が悪いのでございます。活性化を促進させるために魔晶石が欲しいところなのですが……」

「マショウセキ?」

「魔力を秘めている鉱石を結晶化させたものです。常にぼんやりと青く輝いているのが特徴です。この世界にはないものなので、ご存知ではないでしょうが」

「ああ、あれですか」

「……え? 知ってるのですか?」



 キョトンとした顔をするリノアちゃん。


 多分、白狼さんがお礼にくれたやつじゃないかな?


 すんごく高価なものっぽかったら、大切に保管してたんだよね。


 家から持ってくると、めちゃくちゃビックリされた。



「ど、どど、どうしてアキラ様が魔晶石を!?」

「この前、神獣様にもらったんです。ご飯のお礼に」

「ま、まさか」



 信じられないといった表情のリノアちゃん。



「魔晶石は希少価値が高いとても高価なものです。それをお礼に渡すなんて……巫女以外の人間に神獣様がそこまで心を許すわけがありません! アキラ様は一体どんな方法を使って……はっ!? やはり料理に操心の霊薬を混ぜて!?」

「してませんってば」



 冷静に返す。


 ひとりで何を盛り上がっていらっしゃるのやら。


 魔晶石をリノアちゃんに渡すと、手のひらとブラシの間にはさんでブラッシングをし始めた。


 まるで石の青い光が伝播するように、神獣様の毛並みが輝きはじめる。


 おお、すごい。


 これが魔力ってやつなのかな?


 神獣様たちもすごく気持ちがよさそうにしてる。


 それから僕も手伝って庭を訪れている神獣様たち(ちゃっかりモチたちも混ざってた)にひととおりブラッシングをしてから、ご飯を食べることに。


 せっかくだから神獣様たちにも……と思ったんだけど、リノアちゃんに止められてしまった。



「まずはリノアが毒見いたします!」



 ……ああ、そういう話だったっけ。







―――――――――――――――――――

《あとがき》


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