第14話

「はい、どうぞ」

「うわっ!? 何スかこれ!?」

「僕お手製のお稲荷さんです」



 持ってきたのは、たっぷり山菜入りのお稲荷さん。


 一昨日ピザを食べすぎて、あっさりした和食が食べたいなと思って何パターンか作ってみた。


 まず、山菜お稲荷さんに、ニンジンと千切りタケノコ入りの野菜お稲荷さん。


 お次に、高菜にひじきの煮物を入れた惣菜お稲荷さん。


 見た目は同じだから、どれが当たるかは運次第。



「せっかくなので縁側で食べましょうか。風が気持ちいいんですよね」

「おけ丸水産!」



 というわけで、縁側に向かう。


 さっきまで寝てたモチたちが、ピッタリと後ろについてきた。


 こいつらは本当に目ざとい。


 まぁ、モチたちの分も用意してるんだけどね。



「では、頂きます」

「頂きますッス!」



 手を合わせてから、パクリと頬張る。



「……う、う、美味いっ!?」



 神埼さんが歓喜の声をあげた。



「これは……タケノコっスかね!? うわ~、めちゃめちゃ美味しいっ!」

「野菜のお稲荷さんですね。これは……あ、惣菜お稲荷だ」



 お米がふっくらとしていて、高菜の塩気と良く合っている。


 山水を使って炊いているおかげか、白米がすごく美味しいんだよね。


 何の料理を作っても成功するっていうか。



「くわっ、くわっ」

「がー」

「ぐわわ、イタダキマス」



 ちょこんと座ってから、静かに食べはじめるアヒルちゃんたち。


 あれ? なんだか今日は行儀が良くない?


 いつも我先にとがっつくじゃん。


 もしかしてお客さんが来てるからとか?


 それを見て、神埼さんもニッコリ。



「ふふ、お行儀がいいアヒルちゃんッスねぇ~。美味しい?」

「くわっ!」

「あはは、いい返事っ!」



 ナデナデしてもらい、ご満悦のテケテケさん。


 勘吉さんの家に行ったときも思ったけど、アヒルちゃん……特にオスのテケテケって女の子にすぐ懐くんだよね。


 可愛さを最大限利用しててズルい。



「しっかし、賢可愛かしこかわいいアヒルちゃん達ッスね」

「賢すぎてちょっと怖いくらいですけど」

「この子たちって、昔からこの家にいるんスか?」

「それがわからないんですよね。この家に引っ越してきたときはいなかったんですけど、突然庭に現れてから住み着いちゃって」

「へぇ……そうなんスね。あたしが見た変な動物もこの子たちみたいに可愛いかったら良かったんスけど」



 変な動物って、白いドラゴンのことだろう。


 正体はわからないけど、ドラゴンよりアヒルちゃんのほうが良いよね……。


 ドラゴンとか、人も食べちゃいそうだし。


 お稲荷さんを頬張りながら、神埼さんがしみじみと続ける。



「これ、ほんと美味しいッスね。アキラさんってイケメンだけじゃなく料理もできるなんて、マジ尊敬」

「そ、そうですか? 前はそこまでじゃなかったんですけど、ここに来てから妙に料理が美味しくなって。多分、山の水のおかげだと思います」

「いやいや、アキラさんのココっスよ」



 神埼さんがペシペシと腕を叩く。


 ちょっと恥ずかしくなっちゃった。


 神埼さんってば褒め上手だなぁ。



「しかし、美味しすぎてお酒が欲しくなるッスねぇ」

「あ、ごめんなさい。お酒ないんですよ」

「……え? あっ、いや、そういう意味じゃないッス! ごめん」



 肩を竦める神埼さん。


 確かにお酒が欲しくなる味かもしれないな。


 だけど、食べ物はあるけど、お酒は買ってきてないんだよね……。


 ひとりで飲む習慣がないし。


 こういった場面で出せるように買っておいたほうがいいのかな?



「次にいらっしゃったときに飲めるよう、取り寄せておきますね」

「……えっ、マジっスか?」

「はい。何か好きなお酒とかあります?」

「芋焼酎! イエイ!」



 ニッコリダブルピースの神埼さん。


 し、渋いところをチョイスするな~。


 かなりのお酒好きと見た。


 満足してもらえるように、良いお酒を頼んでおこう。


 そんな話をしている僕らをよそに、モチたちはペロリとお稲荷さんを平らげて庭に出ると、どこかへとヨチヨチと歩いていった。


 午後の見回りだろう。


 おやつの虫探しかもしれないけど。



「てか、アキラさんってすごくニュートラルな人ッスよね」

「……え? ニュートラル?」



 首を傾げてしまった。


 どういう意味だろう?



「あんまりグイグイ来ないっていうか、言葉の裏がないっていうか。めちゃめちゃ接しやすいッス」

「そ、そうですかね?」

「そうッスよ! あたしの周りにいた奴らって、み~んな『大人ってこうあるべきだ』とか、『女性とはこうあるべきだ』とか、古臭い固定観念を持ってる人ばっかだったし。たまに、あたしのこと理解してるなって感じの人が来たと思ったら、下心全開だったり! マジ勘弁!」

「そ、それは嫌ですね」

「でしょでしょ!? だから人付き合いが面倒になって山暮らしを始めたんスけど、アキラさんって今まであたしが会ってきた人たちとは違う匂いがして、すごく良いッス!」

「あ、ありがとうございます」



 これは喜んで良い……のかな?


 僕自身もできれば不要な人付き合いから避けたいから、神埼さんが言う「ニュートラル」な感じになってるんだと思う。


 近すぎず、遠すぎずっていうか。


 それが良いと言われるなんて思わなかったけど……。


 だけど、バリバリの現代人っぽい神埼さんも、僕と似たような理由で引っ越してきたなんて驚きだな。


 見た感じからして、めちゃくちゃ人付き合いが好きな陽キャっぽいのに。


 それから1時間くらいまったりして、神埼さんは帰宅することに。


 変な動物の件は勘吉さんに伝えて、周囲に注意喚起してもらうつもりだ。


 まぁ、素直に「隣山でドラゴンの目撃情報があった」なんて言えないから、言葉を濁してね。



「ごちそうさまでした、アキラさん」

「いえいえ。こちらこそお粗末様でした」

「少し遠めのお隣さんとして、今後ともよろしくおねがいするッスね!」

「はい、こちらこそ」



 人付き合いは苦手だけど、お互い山暮らし初心者だからね。



「次に会うときは、お酒で乾杯ですかね?」

「そうッスね! えっへっへ」



 嬉しそうに笑う神埼さん。



「では!」



 神埼さんがシュタッと片手で合掌をして立ち上がる。


 そのままホームセンターの時みたいに颯爽と帰るのか──と思いきや、リビングに戻ってゴソゴソと宇宙服を着始めた。


 あ、それ、ちゃんと着て帰るんですね。


 相当、虫が嫌いなんだなぁ……。







―――――――――――――――――――

《あとがき》


ここまでお読みいただきありがとうございます!


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