転生したら使用人の扱いでした～冷たい家族に背を向け、魔法で未来を切り拓く～

5-3 暴動

エリーナはリュシアンを呼び出して貰い、応接室で彼を待った。

心の中では、様々な思いが渦巻いていた。家族との複雑な関係、母からの警告、そしてヴィクターの突然の訪問。これらすべてが、彼女の心を揺さぶっていた。

リュシアンが部屋に入ってくると、エリーナは安堵の表情を浮かべた。彼の存在だけで、彼女の心は少し落ち着いた。

「エリーナ、何があった？」

リュシアンは彼女の表情を見て、すぐに察した。

エリーナは深呼吸をし、すべてを話し始めた。母からの手紙、ヴィクターの訪問、そして父からの手紙。リュシアンは黙って聞き、時折頷きながら、彼女の話に耳を傾けた。

話し終えると、エリーナは疲れたように椅子に深く腰掛けた。

「リュシアンさん、私⋯⋯迷っているんです。家族とはもう関わらないつもりでした。でも、もし本当に私との和解を望んでいるのなら⋯⋯。私はどうすべきだと思いますか？」

リュシアンは少し考え込んでから、慎重に言葉を選んで答えた。

「エリーナ、これは簡単な問題ではないな。家族との関係は複雑だ。特に、君のような過去があればな。しかし、忘れてはいけない。今の君は、一人の少女ではなく、王国の英雄だ。君の決断は、個人的なものだけでなく、政治的な意味合いも持つんだ」

エリーナは黙って頷いた。彼女も、その重責を痛感していた。リュシアンはエリーナの手を優しく取った。

「俺の意見を言わせてもらえば、迷っているのなら、まだ切り捨てなくてもいいんじゃないか？　完全に拒絶するのでもなく、すぐに受け入れるのでもなく。時間をかけて、彼らの本当の意図を見極めるんだ」

エリーナは彼の手を握り返し、小さく微笑んだ。

「ありがとう、リュシアンさん。やはり、あなたに相談して正解でした」

しかし、その瞬間、突然のノックの音が二人を驚かせた。

「エリーナ様、申し訳ありません。緊急の報告があります」

侍女の声が聞こえた。エリーナとリュシアンは顔を見合わせた。

「入ってくれ」

侍女が入ってくると、彼女の表情に緊張が走っているのが見て取れた。

「エリーナ様、レイヴン家の領地で大規模な暴動が発生したとの報告が入りました」

「詳しい状況は？」

「詳細はまだ不明ですが、領民たちがレイヴン家の不正を訴えて蜂起したようです。現在、事態は収拾されていませんが、多数の負傷者が出ているとの情報もあります」

「すぐに現地に向かいます。リュシアンさん、一緒に来てください」

リュシアンは頷き、すぐに行動に移った。

「わかった。騎士団を集める。30分以内に出発できるようにする。君は俺と一緒の馬に乗ってくれ」

エリーナは父からの手紙を握りしめ、複雑な表情を浮かべた。この暴動と、家族からの突然の和解の申し出。これらは関係があるのだろうか。

彼女は窓の外を見た。空は完全に曇り、雨が降り始めていた。まるで、これから起こる出来事を暗示するかのように。

準備を整え、馬に乗り込む前、エリーナはリュシアンに向かって言った。

「リュシアンさん、この事態が収まったら、私には決断しなければならないことがあります」

リュシアンは彼女の目を見つめ、静かに頷いた。

「わかっている。どんな決断であっても、私は君の側にいる」

エリーナは微笑み、リュシアンとともに馬に乗った。王都を出る時、彼女の心には決意と不安が入り混じっていた。家族との和解か、それとも最終的な決別か。そして、領地の混乱を収めることができるのか。

***

領地に到着すると、そこには想像以上の混乱が広がっていた。怒号が飛び交い、煙が立ち上る中、エリーナは毅然とした態度で馬から降りた。

「皆さん、落ち着いてください！」

エリーナの声が響き渡った。その瞬間、周囲の喧騒が一瞬止まった。

彼女は人々の前に立ち、冷静な声で語り始めた。

「私はエリーナ・レイヴン。皆さんの声を聞くために来ました。どうか、暴力はやめてください」

群衆の中から、一人の老人が前に出てきた。

「エリーナ様、私たちはもう我慢の限界です。レイヴン家の搾取と圧政に耐えられないのです」

エリーナは深く息を吐き、老人の目を見つめた。

「詳しく聞かせてください。私に隠さず、すべてを話してください」

そして、エリーナは人々の訴えに耳を傾けた。不当な税の徴収、資源の搾取、そして権力の乱用。すべてが、彼女の想像を超える酷いものだった。

決意を固めたエリーナは、群衆に向かって宣言した。

「皆さん、私はここで約束します。この不正を正し、公正な統治を取り戻すことを。そのためには、私自身がレイヴン家と対峙しなければならないかもしれません」

その言葉に、人々から安堵と希望の声が上がった。

エリーナはリュシアンの方を見た。彼は静かに頷き、彼女の決意を支持していることを示した。

その夜、エリーナは父への返信を書いた。それは和解の拒否であり、同時に彼女の新たな決意の表明でもあった。

「お父様、私はもはやあなたがたの娘だとは思わないで下さい。この領地の人々を守るために私は戻ってきました。不正を正し、領民の生活に平和もたらすために」

手紙を書き終えたエリーナは、窓の外を見た。雨はもう上がっていた。