転生したら使用人の扱いでした～冷たい家族に背を向け、魔法で未来を切り拓く～

4-7 王国の危機

エリーナたちが勝利の喜びに浸っていたその時、遠くから不吉な轟音が響き渡った。空が急速に暗くなり、異様な雰囲気が辺りを包み込む。リュシアンが即座に剣を構え、周囲を警戒する。

「これは⋯⋯」

リュシアンの表情が険しくなる。突如、ダミアンが影から現れ、息を切らせて報告した。

「リュシアン様、大変です！　サラ・ベネットが消えたそうです。そして⋯⋯」

ダミアンは言葉を詰まらせる。

「王都が襲撃されています。大規模な魔物の軍勢が、突然出現したのです」

エリーナの体が凍りつく。

「サラが⋯⋯？　そして王都が？」

「これは罠だったのかもしれません。私たちを引き付けてる間に、本当の目標を⋯⋯」

アリアが顔をしかめて言うと、その瞬間、地面が大きく揺れ始めた。兵士たちの間から悲鳴が上がる。空がさらに暗くなり、異様な赤い光が雲間から漏れ出してくる。

「全軍、態勢を整えろ！　我々も即刻王都へ向かう！」

しかし、疲労困憊していた兵士たちの多くは、立ち上がることすらままならない。長時間の激戦で、彼らの体力は限界に達していた。

突如、彼らの目の前に巨大な黒い渦が現れた。その中心からサラが姿を現す。しかし、そこにいたのは彼らが知っていたサラではなかった。

サラの体は黒い霧に包まれ、目は禍々しい赤い光を放っていた。その声は歪み、まるで別の存在が彼女を通して話しているかのようだった。

「お待たせしたわね、エリーナ」

サラが不気味な笑みを浮かべる。

「さあ、本当の戦いを始めましょう。あなたの愛する王国の滅びを、その目で見るのよ」

「サラ、どうして⋯⋯こんなことを」

サラは狂ったように笑った。

「どうして？　あなたのせいよ、エリーナ。あなたが全てを奪ったからだわ！　私の誇り、私の地位、私の未来⋯⋯全てよ！　でも今度は違う。グレゴリー様から授かったこの力で、私があなたの全てを奪うわ！！」

サラが両手を広げると、黒い霧が周囲に広がり始める。霧に触れた兵士たちが悲鳴を上げ、倒れていく。その体から生命力が吸い取られていくのが見て取れた。

リュシアンとカイルが剣を構える。

「くそっ、近づけない！　エリーナ、下がれ！」

「どうすりゃいいんだ、こんなの！」

エリーナは必死に光の守護を展開するが、サラの闇の力があまりにも強大で、守護が徐々に押し戻されていく。

「く⋯⋯っ！　みんな下がって⋯⋯っ！」

エリーナの声が震える。

その時、サラの背後の空間が歪み、そこから無数の魔物が姿を現す。それは彼らが先ほどまで戦っていたものとは比べ物にならないほど強大で、禍々しいオーラを放っていた。

サラが高らかに宣言した。

「さあ、エリーナ！　あなたのせいで王国が滅びる様を、しっかりと目に焼き付けなさい。そして最後に、あなたを闇の中に引きずり込んでやる！」

魔物たちが一斉に吠える。その咆哮が辺りに響き渡り、残っていた兵士たちの心を恐怖で満たしていく。

「退くな！　我々が最後の防衛線だ。ここで踏みとどまらねば、王国が⋯⋯！」

しかし、疲弊した兵士たちの中には、恐怖に負けて逃げ出す者も現れ始めた。

その時、遠くの空に赤い光が走る。王都の方角だ。アリアが声を震わせて言う。

「あれは⋯⋯結界が破られた合図です。王都の防衛線が崩れたのでしょう」

エリーナの顔から血の気が引く。

「ソフィア⋯⋯レオナルド⋯⋯みんな⋯⋯」

サラが嘲笑う。

「そう、王国の人間も、あなたの大切な友人も、全て、全て！　闇に飲み込まれるのよ。そしてその全てが、あなたのせいだと思い知りなさい！」

サラの言葉と共に、黒い霧がさらに濃くなり、エリーナたちを包み込もうとする。

リュシアンがエリーナを守るように前に立つ。

「エリーナ、ここは一旦退くぞ！　態勢を立て直さねば」

しかし、退路は既に魔物たちに塞がれていた。彼らは完全に包囲されていた。

「私の力で⋯⋯せめて一時的にでも逃げ道を⋯⋯」

しかし、アリアの言葉が終わる前に、黒い霧が彼女を飲み込んだ。

「アリア！」

次々と仲間たちが黒い霧に飲み込まれていく。エリーナは必死に光の守護を維持しようとするが、疲労と恐怖で体が震え、集中力が途切れそうになる。

「リュシアンさん！　みんな！」

エリーナの叫びが闇に吸い込まれていく。彼女の視界が真っ暗になり、仲間たちの悲鳴が遠ざかっていく。

最後に聞こえたのは、サラの勝ち誇った笑い声だった。

「さようなら、エリーナ。永遠の闇の中で、絶望に浸るがいいわ」

そして、エリーナの意識も闇の中へと沈んでいった⋯⋯。

王都では、魔物たちが街を蹂躙し、建物が次々と炎上していた。市民たちの悲鳴が夜空に響き渡る。王城の上空には巨大な黒い渦が現れ、その中心にグレゴリー・クロウフォードの姿があった。

彼は高らかに宣言した。

「我が野望の時がついに来た！　古の力を解き放ち、この私がこの国を、世界を支配するのだ！」