2-7 不穏な噂

エリーナが魔法の実技で成功を納めてから、数週間が経過していた。彼女の急激な成長は学院中の話題となり、多くの生徒たちが彼女に興味を示すようになった。しかし、その中には彼女の成功を快く思わない者もいた。


ある日の午後、エリーナはソフィアと一緒に図書館で勉強していた。二人は高度な魔法理論について議論を交わしていたが、その様子を遠くから冷ややかな目で見つめる人物がいた。サラ・ベネットである。


「あの田舎娘が、どうしてこんなに急に強くなったのよ⋯⋯」


サラは歯ぎしりしながら呟いた。


「絶対に何か裏があるはず。それを暴いてやるわ」


翌日、エリーナが教室に入ると、クラスメイトたちの様子が少し変わっているのに気づいた。彼女に向けられる視線には、これまでの尊敬の色が薄れ、代わりに疑惑の色が混じっていた。


「どうしたの?」


エリーナはソフィアに尋ねると、ソフィアは心配そうな表情で答えた。


「ちょっと⋯⋯変な噂が広まってるみたい」


「噂?」


その時、サラが意地の悪い笑みを浮かべながら近づいてきた。


「おはよう、エリーナ」


サラの声には皮肉が込められていた。


「最近のあなたの成長ぶり、本当にすごいわね。でも、どうやってそんなに急に強くなったのか、みんな不思議がってるわ」


エリーナは困惑した表情を浮かべた。


「どういう意味?」


サラは周りの生徒たちに聞こえるように大きな声で言った。


「あなた、禁断の魔法書を使ってるんじゃないの? それとも、誰かから違法な魔力増強薬をもらってるとか⋯⋯」


教室中がざわめいた。エリーナは驚きのあまり言葉を失った。


「そんなことない! エリーナはただ一生懸命努力しただけよ!」


しかし、サラの言葉は既に多くの生徒たちの心に疑念の種を蒔いていた。


その日の授業中、エリーナは周囲の冷ややかな視線に耐えながら過ごした。休み時間には、かつて彼女に好意的だった生徒たちも、距離を置くようになっていた。


放課後、エリーナは落ち込んだ様子で中庭のベンチに座っていた。そこへソフィアが駆け寄ってきた。


「エリーナ、大丈夫?」


エリーナは弱々しく微笑んだ。


「うん⋯⋯でも、どうして皆があんな風に信じちゃうのかな⋯⋯」


ソフィアは友人の肩に手を置いた。


「サラの言葉を真に受ける人がいるなんて、信じられないわ。でも、大丈夫。私たちで真実を明らかにしましょう」


二人は対策を練ることにした。まず、エリーナの努力の証拠を集めることにした。ソフィアは二人で勉強していた記録を集め、エリーナは補習を受けていたヴァレリウス先生に相談することにした。


翌日、エリーナはヴァレリウス先生の研究室を訪ねた。


「先生、お話があります」


エリーナは緊張した面持ちで言った。そんなエリーナの様子にヴァレリウス先生は眉をひそめた。


「どうした、レイヴン? 何か問題でも?」


エリーナは深呼吸をして、クラスで広まっている噂について説明した。先生は真剣な表情で聞いていた。


「なるほど。確かに、君の成長は驚異的だ。だが、それは君の努力の賜物だ。私が証明しよう」


エリーナは安堵の表情を浮かべた。しかし、その日の授業ではサラが多くの質問をしたため、ヴァレリウス先生が発言する機会が得られなかった。サラの噂は、更に広がっていった。


翌日、エリーナが教室に入ると、更に多くの生徒たちが彼女を避けるようになっていた。サラは満足げな表情を浮かべていた。


「どう、エリーナ? みんなの目が変わったでしょう? あなたの正体が、ようやくバレたってことよ」


エリーナは反論しようとしたが、言葉が出てこなかった。周囲の冷たい視線に押しつぶされそうになる。


その時、ソフィアが駆け寄ってきて手を握ってくれた。


「エリーナ⋯⋯大丈夫?」


「うん、ありがとう。真実は私が良く分かっているもの。気にしないようにするわ」


しかし、それは簡単なことではなかった。サラの噂は学院中に広まり、エリーナを信じる生徒は日に日に減っていった。ヴァレリウス先生も、噂の出所がはっきりしない以上、公の場で発言することはできないと言った。


エリーナは苦境に立たされていた。しかし、彼女は諦めなかった。毎日の練習を続け、更に魔法の腕を磨いていった。


きっと、いつか真実は明らかになる。それまで、エリーナにできることは努力を続けることだけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る