最終章 肆
凛の危機的な状況。
大和の身体は、うつ伏せの状態で動けないでいた。
その大和の頭に、響いて来た、男の低い声。
―小僧! 小僧!―
大和の頭の中に響く声。
「あ······頭の中に······誰だ······?」
―小僧! 俺は今、お前達の元へと向かっている。だが、お前達のいる次元に辿り着くのに、まだ暫く時間がかかる―
「向かっている······? 次元······?」
―お前には無理をさせたくないが、だが、今は、使えるのはお前しかいない―
「な······何だ······? 誰なんだ······?」
―小僧! 身体の力を抜け、脱力しろ。大地に身を
「脱力······大地の力······感じ取る······」
大和は、頭の中に響く男の声が、誰なのかは知らない。
だが、大和は男の声を信じた。信じられた。
脱力して、大地に身を委ねた。
凛は、悲鳴をあげ続けていた。
巫女は凛の胸に、片手を当てている。
凛の身体の内側から、力が溢れ出して来た。眠っている凛の力が目覚めようとしていた。
巫女は歓喜している。
「出て来た! 感じる! 輝く強い力を! あはははは! なれる! 私は、不老不死に! この現世で生身を持ちながら神になれる! あはははは!」
神社の在る山の下、参道の入り口の隣に位置する駐車場に、八部衆を乗せた寺院専用の大型バスが到着した。
美琴は、バスの運転手と寺院から付いてきた僧侶三人に、自分達が戻るまで待つ様に伝えると、バスから急いで出る。
八部衆の七人は、山の上から力を感じ取っていた。
美琴は、この力に覚えがある。
「この力······凛さん! 間違いない、凛さんから感じ取れた輝く力!」
蘭真が、美琴の言葉を聞いて、
「えっ、凛ちゃんの力? 凛ちゃんが来ているの?」
美琴は、自分の考えが、甘かった事に気付く。
「神社に行っては行けないと伝えるだけではなく、凛さんの側に居るべきでした。私の責任です······」
美琴は、他の八部衆に声を掛ける。
「神社に急ぎましょう! すぐに神社に向かわなければ! 凛さんの力が目覚めても、凛さんは力の使い方を知らない!」
八部衆の七人が、神社を目指して参道へと向かう。
だが、参道の前に何者かが居た。
参道の入り口の前に、お互いに向かい合って、地面に座っている学生の服を着た三人の男子。
あの、コンビニの駐車場の地面に座る三人の男子高校生。
八部衆は、その三人の男子学生から、異様な存在感を感じ取る。
頭に青いバンダナを巻いて、青色の半袖シャツにデニムズボン姿の珠流が、
「あの三人······人間じゃない。だが、幽体でもない······」
肩まで伸ばした長髪で金髪、黄色の半袖シャツでジーパン姿の雷呀が、
「あれは······魔族······魔物だ······」
縦長く赤いモヒカン頭で、赤い半袖シャツに赤いズボン姿の羽沓が、笑っていた。
「フヒハハ。何だよ何だよ。ずいぶん面白い事になっているじゃねえかぁぁぁ」
参道のわきの木々から、姿を現した者がいた。
髪が、紫色で短い。老婆。
老婆の姿を、視界に映した八部衆全員の背中が、凍り付く感じを覚えた。
狂人の異名を持つ羽沓さえ、笑う事が出来なかった。
緑色の法衣を纏い、ひときわ大きな身体で短髪、片手に自分と同じ身長程の
「あの老婆······何だ······とてつもない······」
黄色の法衣を纏い、背中を丸めた猫背で坊主頭の湊羅が、喋り出した。
「お······俺······聞いた事があるんだな······日本の死神は······老婆の姿をしているとか······何とか······だな······だな」
黒い法衣を纏い、大きな黒い数珠を首に巻いた、ショートカットの女性の蘭真は、目を見開いた。
「死神······神の眷族じゃないか······ボク達が······どうにか出来る相手じゃない······なんで······そんな存在が······ここに······そんな······そんな······」
赤い法衣を纏い、髪を背中まで伸ばした美琴は、歯を強く噛み締めた。
神社に急いで向かわなければならない。
だが今、八部衆の前に、思わぬ強大な力を秘めた存在が立ち塞がっている。
なぜ、死神や魔物が、この場所で八部衆の前に姿を現したのか。邪眼の巫女と何か関係があるのか分からない。
紫色の髪をした老婆は、地面に座る学生姿の三体の魔物に、歩み寄り言葉を掛けた。
「
その言葉を聞いた学生姿の三体の魔物は、立ち上がり、八部衆に向かい歩き進んで行く。
三体の魔物は、戯れる相手を決めている様だった。
珠流。雷呀。羽沓。
学生姿の三体の魔物は、それぞれ三人の前に立った。
本当なら七人で協力して、この魔物と闘うべき、しかし、美琴は決心して大きな声を出した。
「珠流! 雷呀! 羽沓! ここは、貴方がたに任せます! 私達は神社に向かいます!」
三人は、美琴の声に何の返事もしなかったが、美琴は、参道に向かい走り出す。
美琴に続き、戸惑いながらも、从磨、蘭真、湊羅も参道に向かい走り出した。
参道の入り口には、老婆の姿をした死神が立っている。
だが、老婆は、
「ふむ。あの三人で良いじゃろう。神社に行くが良い。急ぐが良い」
老婆の姿をした死神は、参道の入り口から横に離れた。
美琴達四人は、参道の入り口に入り、参道を走り突き進む。
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