第三章  拾弐



 はここずえ


 真神楽寺院に昔から言い伝えられている事。


 十二神将以外は、箱ノ梢に『近づいてはならない・触れてはならない・決して素顔を見てはならない』


 この三か条が僧侶達に言い伝えられていた。


 その箱ノ梢が、初めて八部衆の前に姿を現す。


 羽屋敷に八部衆の七名が揃っていた。


 座布団に正座している者、あぐらをかいている者、体育座りをしている者。


 八部衆と距離を取り、向かい合う様に老師四人が正座している。


 室内の端の方に、レイナと桃華が紫色の座布団の上で正座していた。


 一人の老師が口を開いた。


「斬刃はいないが、八部衆が顔を揃えるのは何時以来か。美琴や蘭真そして从磨以外は、集合の連絡をしても集まらん」


 雷呀が、あぐらをかいて言う。


「面倒臭いからだよ。それに、八部衆が全員集合する連絡なんざ滅多に来ないだろ」


 雷呀の隣に、これまたあぐらをかいて座っている珠流が、


「今回は、斬刃の事もあるしよ、何より真神楽寺院の絶対的支配者が、初めて俺達の前に姿を現すわけだからな」


 桃華が、八部衆を見ていた。


 全員二十代後半だろうか。


 八部衆の一人が、桃華をじっと見つめていた。蘭真だった。


 どうやら蘭真は桃華に気があるらしい。


 蘭真は女性だが、男には全く興味が無く、年下の可愛い女性に興味を抱いていた。


 桃華は、蘭真と視線が合ったが、すぐに視線を下に落とした。


 蘭真は首を傾げた。


 さっきから桃華に自分に好意を抱かせる為に、念を送っているが、桃華には何故か念が通じていない。


 他の一人の老師が、八部衆全員を見て話し出した。


「斬刃の事は、そこにいらっしゃる斬刃と仕事をしていた矢吹様から連絡で聞いておる。私から矢吹様に聞いた斬刃に起こった事を話そう」


 老師は、レイナの連絡で聞いた斬刃の身に起こった事を八部衆に一通り話した。


 老師の話しを聞き終えた珠流が、


「へぇ、あの斬刃がねぇ······地面に巫女の悪霊と沈んで行ったらしいが、ただしくは別次元に行ったんだろう、生身のまま。だったら生きている確率は高いな」


 レイナが珠流の顔を見て、


「斬刃は生きているんですか?」


「ああ、多分だがな。だが生きていても、こっちの次元に戻って来られるかどうか······しかし斬刃の実力は相当なもんだ。時間がかかっても戻って来るだろう」


 レイナと桃華は、珠流の言葉に僅かだが胸を撫で下ろした。


 雷呀が疑問を抱いた。


「斬刃が禁呪を使い道連れにした巫女の悪霊はどうなんだ?」


 美琴が答える。


「邪眼の巫女は、別次元から戻って来ています。私には、そう感じられます」


 蘭真が、桃華から美琴に視線を移した。


「美琴って、そう言うのが分かるから凄いよね。ボクには分からないよ、そんな遠い場所の事なんてさ」


 羽屋敷の入口のふすまが開いた。


 白い仮面に白い鎧を着用した十二神将の四人が入って来た。


「箱ノ梢様がいらした」


 十二神将の一人が言った。


 四人の後から、もう一人の十二神将が車椅子を押して室内に入って来る。


 車椅子には、白い仮面を被り、胸にまでとどく長い黒髪、そして白い法衣を纏った者が座っていた。


 十二神将の男は、車椅子を老師達が正座している後へと押し進めた。


 車椅子に乗る人物の両脇に、二人づつ十二神将が立ち並んでいる。


 車椅子に乗る人物こそが、真神楽寺院の権力者であり支配者、箱ノ梢であった。


 白い仮面には、目と鼻に穴が開いている。


 全員が、初めて姿を見る梢に視線を送っていた。


 名前からして女性だと、誰もが思っていたが、当たりだった。


 梢が、高い呼吸音を出しながら話し始める。


「ヒュウウウ······お初にお目に掛かります。老師達、八部衆の方々。それに、遠方からおいでになったお客人のお二人······ヒュウウウ······ご苦労さまです。ヒュウウウ······八部衆の方々、今日は全員が、揃った事に感謝致します。ヒュウウウ······」


 八部衆の何人かは、頭の中にある霊力のスイッチをオフからオンにして箱ノ梢を見るが。心が読めないでいた。


 それだけではなく、人間なら誰もが発するオーラ。だが、梢のオーラが全く視えないでいた。


 十二神将以外、『近づいてはならない・触れてはならない・決して素顔を見てはならない』


 箱ノ梢。


 こうごうしいと言うより、底が知れない不気味な存在に感じられた。




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