第52話 ゼントVSセバスチャン②

 ゲルドン杯格闘トーナメント――決勝戦。


 俺、ゼント・ラージェントは、最大最悪の宿敵、セバスチャンからダウンを奪った。


 しかしセバスチャンは、不気味な悪魔的オーラを身にまといながら、立ち上がる。


 これがセバスチャンの真の姿だ!


 ……くっ……! この間のゲルドン戦後で見たオーラより、強烈な邪悪さになっている。とにかく近づきたくないと感じさせる。邪悪さが凝縮ぎょうしゅくされ、今にも襲い掛かってくるようなオーラだ!


「ゼント君、私をここまで追い詰めたのは、賞賛にあたいする」


 セバスチャンは構えながら言った。


「よろしい、少しだけ私の本気を見せてあげよう――」


 グワッ


 セバスチャンが右ストレートパンチを振りかぶる!


 ガッスウウウ!


 俺は咄嗟とっさに、両手でパンチを受ける! ――俺は3メートルは吹っ飛ばされた。こんなのまともに喰らったら……!


「おおおおら!」


 セバスチャンはジャンプし、寝転んだ俺を、上から踏みつけようとする!


 サッ


 俺は寝ながら、かわす! そして、俺は寝ながら右スライディングキックを放つ! セバスチャンはそれをける――。


 ……! こ、この状況は!


 俺はすかさず、再び左スライディングキック! セバスチャンは足裏でそれを受ける。


 俺はリング上で寝転びながら、セバスチャンを見上げた。セバスチャンは立って、俺を見下げる。


「おい……これ」

「あの伝説の?」

「きたああーっ」


 観客も、この状態の重要性が分かっている。


 100年前、伝説の職業レスラーと、伝説の拳闘士の対戦! 3分15ラウンド、彼らはこの状態で闘い抜いたのだ。リアルファイトだからこそ、この状態になる!


「ハハッ」


 セバスチャンは笑った。


「まったく、君との対戦はきないよ。何なんだ? ゼント君、君ってヤツは?」


 俺は彼のひざを、足裏で蹴る。セバスチャンは距離をとる――。

 2分――3分――それくらい時間が経っただろうか。


 セバスチャンが大きくジャンプした。その時、セバスチャンの背後に、古い武人が見えた。サーガ族の亡霊だ!


 セバスチャンは、またしても、上から俺を踏みつける!


 しかし――チャンスだ!


 俺はすかさず、彼のひざを両腕でつかむ。セバスチャンはバランスを崩した――かに見えたが、そのまま俺の腹に片膝かたひざを乗せ、馬乗り状態に移行!


 そうはさせるか!


 せえの……!


 ぐるり


 俺は勢いをつけて、セバスチャンと体勢を入れ替えた。そしてついに――。


 俺が、セバスチャンから馬乗り状態を奪った! 俺が上になったのだ!


「お、お前……!」


 下になったセバスチャンは、目を丸くしている。


 ガスウッ


 俺は上から、パンチを落とした。セバスチャンはあわてて腕で顔を防ぐ。しかし、俺はがら空きの腹をパンチ! その後、素早くまた、セバスチャンの顔めがけてパンチ!

 

 パシッ


 セバスチャンは手の平で俺のパンチを受ける。


「うっ!」


 ドボッ


 その時、セバスチャンのひざが、俺の腹に入っていた。そして俺の肩に、足裏蹴り!


 ガスウゥッ……


 すさまじい脚の力だ! 俺は1メートル吹っ飛ばされた。だが、俺は何とか距離をとって、立ち上がった。ダメージはないが、馬乗り状態は――外されてしまった……!


 セバスチャンも素早く立ち上がり、何と、走り込んできた。セバスチャンの背後に、また人影――古い武人が見える! 亡霊だ!


 ガッシイイ


 セバスチャンの飛び前蹴り! 俺は咄嗟とっさに腕で防いだが、コーナーポストに背中を打った。試合に支障はほとんどないが、体への衝撃しょうげきはかなりのものだった。


 しかし、俺も出るしかない!


「おらあああっ!」


 俺は向かっていった。今度は、俺が走って飛び蹴り! セバスチャンはそれをける。


 俺が振り返ると同時に、セバスチャンは上からパンチを振り下ろす!


 ガッスウッ


 俺は素早く、左アッパーを、セバスチャンのアゴに決めていた。俺はセバスチャンのパンチをよけていた。セバスチャンは自分の力を過信かしんしている。防御がおろそかだ!


 のけぞるセバスチャン。俺の右ボディーブロー!


 ドボオオッ


「ぐふううっ」


 決まった! セバスチャンの体が前傾姿勢ぜんけいしせいになる! 腹部の急所に入ったのだ!


「き、貴様ぁあああっ!」


 怒りを込めた、セバスチャンの左フック! 俺はそれをけ、右アッパー! セバスチャンは上体でかわしつつ、右中段蹴り! 俺はスネで受ける。


 今度は俺の下段回し蹴り! セバスチャンもスネで受ける。今度はセバスチャンの左フック! 俺は右腕でそれを払い、カウンター気味に左ストレート……。だが、またセバスチャンは上体だけでける!


 ウ、ウオオオオオオッ……


「速すぎて見えねーよ!」

「手数はあるのに、おたがい、倒すまでにいたってないぞ……!」

「こりゃKOで決着するぜ……絶対!」


 観客たちも声を上げている。


「もう、技は出し終えたのかな? ゼント君」


 セバスチャンは余裕を見せる。しかし、肩で息をしているぞ! セバスチャン!


 俺は一歩踏み込み、上段前蹴り!


 ガスウッ


 セバスチャンのアゴに当たる! もう一発、上段前蹴り! 今度はセバスチャンの右頬に当たる! そして、右中段蹴り、連発二発だああっ!


「くっ!」


 セバスチャンは、腕で俺の蹴りを防御した。そろそろ彼もスタミナが切れてきた。上体だけで、避けるわけにはいかなくなってきている! 


 おや? 彼はよろけた――。ここか? 俺は一歩、前に出た。


「ダメよ! ワナだよ、ゼント!」


 エルサが声を上げる! な、何だと?


「ゼント君、ようこそ!」


 セバスチャンはそう言いながら、俺の両肩を、腕でつかんだ!


 くうっ、効いて見えたのは、セバスチャンの芝居しばいか?


「ようこそ、軍隊格闘術の世界へ!」


 セバスチャンはそう言いつつ、組みつきながら、俺に超接近型の右パンチを俺の腹に打ってくる。しかもセバスチャンは、俺が離れられないように、俺の左腕を自分の右腕でフックしている!


 ボスッ ゴスッ ボスッ


 く、う、うまい! 接近しすぎると打撃は効かないものだが、彼は接近戦でも打撃を効かせるように、工夫しているのだ! 手首をひねったり、緩急かんきゅうをつけたり……!


 しかも、俺の腕をうまく固定している。俺は磁石のように、セバスチャンから離れることができない!


 その時!

 

 ヒュッ


 セバスチャンは一瞬のすきをついて、俺の背後に回り込んだ。


 ゾクッ……


 俺は邪悪な力を感じた。嫌な予感がする。


 ガッシイイッ


 セバスチャンは肘を使って、俺の後頭部を打つ!


「うぐっ!」


 俺はバランスを崩して、前方に倒れ込む。


「だ、だめ! ここからは絶対に油断しないで! セバスチャンの必殺技が来る!」


 セコンドのエルサの声が聞こえる。


 俺が倒れ込むと、セバスチャンは俺から背面馬乗りバックマウントをとってしまった。つまり、俺の背中に馬乗りをしている状態だ!


「ハハハ! 君はここで死ぬんだよ!」

 

 背後のセバスチャンの声に、恐ろしものを感じた。亡霊たちが一斉に喋っているような……。


 セバスチャンは、俺の首に、自分の腕を巻き付けてきた!


 セバスチャンの背面馬乗りバックマウントからの――チョークスリーパー! 裸締だはだかじめだ!


 決まったら終わる――。


 俺はすぐに首を――頸動脈けいどうみゃくを腕で守る!


「し、しぶとい男だ!」


 セバスチャンは声を荒げる!


 俺は絶対に決めさせない! そして俺には、逆転の道が見えていた!

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