第47話 大勇者ゲルドンから話を聞く

 俺――ゼント・ラージェントが大勇者ゲルドンに勝利した2日後――。


 俺とエルサは何と、ゲルドンの屋敷に招かれた。


 俺たちはリビングのソファに座り、ゲルドンと向かい合わせになって座った。


「こうやってじっくり話すのは何年ぶりだ?」


 ゲルドンはソファに深く腰掛けながら言った。ゲルドンの顔はれている。試合で俺に殴られたからだ。


「20年ぶりだよ」


 俺は言った。


「俺がお前にパーティーから追放されてから、20年経っている」

「……そうか」


 ゲルドンは真面目な顔で、つぶやくように言った。


「お前たち、俺をうらんでいるか? エルサは? お前を不倫にさそったことを、うらんでいるか?」

「まあね」


 エルサがため息をつきながら言った。


「でも、ゼントがあんたをぶっとばしたからね。一瞬はスカッとしたよ。……あんたを怒り続けるのは疲れる。人ををうらみ続けるのは、損だよね……」

「そうか、損か……」


 ゲルドンは苦笑いした。しかし、目は笑っていない。どんな心境なんだ、こいつ?


「ゼントは? お前、怒ってるのか。俺はお前をパーティーから追放して、お前の人生を狂わせた。20年間引きこもってたんだろ」

「完全にゆるすってわけにはいかない。でも、お前をぶっとばしたからな。少しは胸のつかえがとれたかもしれない」


 俺は言った。ゲルドンは、「うん……そうか」と頭をかきながら言った。


「俺は……ヤベぇことをしちまったよな。仲間に。幼なじみに」


 こうして話してみると、ゲルドンは昔のまんまだった。

 16歳の時の、まだ少年だった頃のゲルドンのまんまだった。


「ゆるしてくれ」


 ゲルドンは頭を下げて、言った。俺とエルサは驚いたが――エルサは言った。


「あんたがやった行いはゆるせない。でも、こうして話してみると、懐かしいってのがあるよ……。さっきも言ったけどさ、ゆるさないのは疲れた。頭を上げなよ、ゲルドン」

「そういや、フェリシアは?」


 俺が聞くと、ゲルドンは悔しそうな顔をした。フェリシアは俺の元彼女。といっても、俺はフェリシアと手すらつないだことがなかったけど……。ゲルドンは俺からフェリシアを奪って、結婚したのだ。


 ゲルドンは神妙な顔で言った。


「フェリシアとは、離婚した」

「ええ?」


 俺とエルサは同時に声を上げた。俺は聞いた。


「フェリシアは妊娠にんしんしているんだろう?」

「ああ。だけど、俺は愛人ばっかりつくってたからな。毎日ケンカばっかりだった。おととい、俺がゼントに負けた後、つまり……試合後、この家でケンカしてさ。離婚届を書かされた……それにな」


 ゲルドンは静かに言った。


「俺、借金が10億ルピーあるんだ。毎晩飲み歩いてたからなあ……。トーナメントで金使っちまったから、返せねーよ……」

「10億? まったくあんたは」


 エルサは腕組みをした。


「しょーがない男だね」


 ゲルドンは頭をかいている。こうしてゲルドンを見ると、まるで少年時代のわんぱくなゲルドンが、そのまま大人になったようだった。

 ゲルドンは話を続ける。


「――で、ゼント。お前、セバスチャンとの決勝戦があるんだろ」

「ああ。でも、セバスチャンはお前の秘書だろ。この屋敷にはいないのか?」

「もう、この屋敷にあいつは来ない。一般人に負ける大勇者なんか、大勇者じゃねえってよ。フェリシア同様、セバスチャンも出ていった」


 そういや、セバスチャンはゲルドン戦の後、ゲルドンの秘書をやめるとか、言ってたっけ。

 俺は続けて聞いた。


「っていうか……セバスチャンって何者なんだ? ローフェンもサユリも簡単に倒しちまったし……」

「エルサは知っているだろうが、セバスチャンは、俺のパーティーメンバーだった。天才的な武闘家ぶとうかだ。頭もいい。良い大学を16歳で出た。俺はあいつに頼りっぱなしだった。薄々気付いていたさ、俺より強いかもしれないってな」

「実業家でもあるそうだな」

「そうだ。俺と一緒に、武闘家ぶとうか養成所、『G&Sトライアード』を設立した。まあ、俺は商売の才能はないんで、セバスチャンにすべてをまかしていた。だけど――セバスチャンは、若い武闘家ぶとうかを洗脳しているんだ」

「サユリも言ってたような……。どんな風にだ?」

「『ジパンダル』って幻の国を知っているか?」

「聞いたことはある。東の果ての理想郷だってな」

「『G&Sトライアード』に来ている若者は、ほとんどみなしごなんだ。親がいねえ。それを利用して、『理想郷であるジパンダルが、お前たちの本当の故郷なんだ』と洗脳しているのさ」


 俺はサユリが、俺にそんなことを言っていたことを思い出した。確か、「一緒に故郷に帰りましょう」とさそってきたっけ?


「ゼント、セバスチャンはお前を自分の仲間に引きいれたかったようだぜ。サユリを利用して、お前も洗脳しようとしていたんだよ」

「マジか……」


 今度は俺は、ゲルドンとの試合のことを聞くことにした。色々、不思議なことを感じた。


「それはそうと、ゲルドン、お前の力はちょっと尋常じんじょうじゃなかったぞ」

「ああ……あれは『サーガ族の生き血薬』の効力だな」

「ミランダさんも言ってたけど、サーガ族って何なんだよ?」

「サーガ族はジパンダルに存在する、戦闘民族のことらしいぜ。セバスチャンの助言者のアレキダロスってヤツが言ってたけど」

「ジパンダル? 洗脳の話にも出たけど、あんなのおとぎ話の国なんじゃないのか?」

「うーん……セバスチャンとアレキダロスはジパンダルの存在を、信じていたようだったぜ? そういえば、エルサ、お前には娘がいるだろう。アシュリーだっけ……」


 俺とエルサは顔を見合わせた。

 ゲルドンは言った。


「アレキダロスは、『アシュリーにサーガ族の血が流れている』と言っていた」

「まさか?」


 声を上げたのは、アシュリーの母親であるエルサだった。


「そ、そんなのウソよ」

「ああ、そうかもしれねえ。でもな、エルサ、アレキダロスはお前のことも言ってたぜ。『母親のエルサにはサーガ族の血は、あまり流れていない。しかし、娘のアシュリーの血液には、隔世遺伝かくせいいでんで、サーガ族の血液成分が多くみられる』ってさ。確かに、そんなことを言ってたはずだ」

「血液成分? ど、どうしてそんなことが分かるんだ?」

「グランバーン王国では、秘密裏ひみつりに、全国民の血液や髪の毛を採取、保存しているらしい。採血さいけつなら病院でやればいいし……。血液や髪の毛の情報を調査することを、『遺伝子工術こうじゅつというらしいぜ。セバスチャンやアレキダロスは、その機関きかんつながっていると聞いた」

「エルサ……」

 

 俺はエルサを見た。幼なじみのエルサは俺と同様、孤児院出身だ。エルサには両親はいない。つまり、アシュリーの祖父母は、どんな人物か分からないのだ。


 エルサの両親――つまり、アシュリーの祖父母が、サーガ族の可能性は……ありえる……!


「ゼント、エルサ、気を付けろ……!」


 ゲルドンは眉をひそめた。


「セバスチャンとアレキダロスは、アシュリーに対して、何かをたくらんでいる気がしてならねえ」


 俺とエルサは顔を見合わせた。

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