第36話 その頃、セバスチャンは④
大勇者ゲルドンの秘書であり、実業家でもあるセバスチャンは、グランバーン城に向かった。
国王直属
国王
その隊長は大勇者ゲルドンと並び、国民の第2の勇者と
◇ ◇ ◇
「
セバスチャンが、城内の豪華な
ブオン
もの凄く大きな塊が、顔に向かって飛んできた。
それは拳! 何者かのパンチだ!
部屋の中に何者か――大男がいる!
「くっ」
セバスチャンはその巨大な拳を両手で受け、
ドガッ
男の腹に、セバスチャンの前蹴りが当たった。しかし、セバスチャンが逆にはね飛ばされた。
セバスチャンは床を転がり、ノーダメージですぐに立ち上がり、身構えた。
相手は、腹筋だけの
「はっはっは」
セバスチャンが目の前を見上げると、
隊長の年齢が50代半ば。しかし、体のサイズは一般人より2回りでかい。
身長190センチ、体重90キロ、といったところか。
「久しぶりだな。歓迎するぞ、息子よ」
隊長は――セバスチャンの父、ラーバンスだった。
ラーバンスがソファに座る。彼の体重でソファが、ギシリときしんだ。
「……父上、お久しぶりでございます。
セバスチャンは
ラーバンス――とてつもない
「ふむ、格闘術の練習はおろそかにしていないようだな。会うのは2年前の、
ラーバンス隊長は言った。
相変わらず、鬼のように強い男だ――セバスチャンは父を見て思った。
「セバスチャン、お前に、ゆくゆくは国王
父がそう言うと、セバスチャンは驚いた声を出した。
「わ、私がですか?」
「そうだ、喜ばしいことだろう。というわけで、お前に機会を与える。来月から
「は……?」
「
バカな……。セバスチャンは父親をにらみつけた。
確かに私の最終目標は、国王直属
だが、今や自分は、大企業「G&Sトライアード」の最高責任者だ。何で今さら、兵士となって1から修業し直さねばならんのだ? しかも来月から?
子ども扱いしやがって……私は仕事でいそがしい。
バカバカしい
それに、副隊長になれば、
――くだらん!
「お言葉ですが、私は実業家として成功しています。大勇者ゲルドンの秘書としても、仕事があり、いそがしいのです」
セバスチャンは笑顔を作って言った。顔はひきつっていたが。
「なぜ1から、
「……幻の国ジパンダル……お前の生徒たちは、皆、ジパンダルを故郷と思い込んでいるようだな」
父はつぶやくように、セバスチャンを試すように言った。
(ううっ……? なぜそれを?)
セバスチャンは父のつぶやきにゾッとした。
「『ジパンダルは
何と、父ラーバンスは、セバスチャンが
「お前は、みなしごの青年たちを集めて、何やら
ギクリ
セバスチャンは冷や汗をかいた。
この世界征服こそ、「G&Sトライアード」の真の目的だからだ。
若い
それがセバスチャンの目的だ。
「それに――ゴシップ雑誌に『G&Sトライアード』を脱退した
父の追及は止まらない。
雑誌だと……? アレキダロスにチェックさせておけばよかった。
セバスチャンはギリリと
「我がラーバンス家に、くだらん問題を持ち込むな。先月の
ラーバンスはため息をついた。
「まともになれ、セバスチャン」
父、ラーバンスは言った。
「他にも情報が入ってきておる。お前、裏で幻の国、『ジパンダル』を探しておるのだろう」
セバスチャンはまたしてもギクリとしたが、父は話を続けた。
「古いジパンダルの文献を調べ、若い
セバスチャンは父のものの言い方に腹を立てたが、父親は続けた。
「そんなわけのわからぬ組織の中で、社長ごっこをしても、そのうち世間は冷たい目で、お前を見ることになる。
父の言うことは……正しい。しかし……。
「わ、私には」
「何だ?」
「私の望んだ世界がある! 私はもう子どもではない!」
セバスチャンの言葉を聞いたラーバンスは、首を横に振った。
「セバスチャン、いかん。では……力づくで止めるか……」
ラーバンスはミシリとソファを立ち上がった。両手で拳を握り、ポキポキと音を立てる。
(ううっ……)
セバスチャンはギチッと構えた。
巨漢のラーバンスが、セバスチャンの前に立ちはだかる。50代だというのに、すさまじく張りつめた筋肉だ。まともに闘ったら、ただじゃすまないだろう。
ラーバンスの闘気が、セバスチャンの方までビシビシと伝わってくる。
しかし!
「父上、私があなたを叩きのめしてごらんにいれましょう」
セバスチャンは改めて構えた。
「死にたいのか、セバスチャン」
ラーバンスが一歩前に出る。
ズチャッ……。重々しい足音が、室内に響く。
セバスチャンは、戦闘態勢に入りつつあった。
コツコツ……。
その時、扉の方から音がした。ノックだ。
城内の兵士が1名、部屋に入ってきた。
「王様から、ラーバンス様へ伝令がございます。――申し上げます」
「グランバーン王から? 何だ」
ラーバンスが兵士をジロリと見た。
「王様は、『次期国王
う、うおおおっ……。
セバスチャンは目を丸くした。
何と! 何という幸運。
「何だと? 副隊長候補ではなく隊長候補?」
ラーバンスはギロリとセバスチャンをにらんだ。
「そうか。格闘トーナメント……。お前、出場しとるのか」
「はい、私は自分が優勝できると信じております」
セバスチャンはニヤリと笑った。ラーバンスの顔はひきつっている。
「となると、お前が……私を
「ハハッ、父上。王の言う通り、そろそろ隊長職のご辞退を考えられても良い年齢かと」
「生意気な!」
ラーバンスは舌打ちをして、ため息をついた。
「――だが一つ言っておくぞ。お前は高く飛び過ぎている。このままでは、必ず痛い目にあう。小石だと思っていた物につまづき、大怪我をするぞ」
「怪我? そんなバカな、私に限って。――さて時間です、私はこれで失礼いたします」
「
父の言葉を背に受け、セバスチャンは
(これでこの世の支配の野望に、一歩近づいた……!)
セバスチャンは笑いが止まらなかった。
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