第31話 その頃、セバスチャンは②
ここは
ミランダとセバスチャンの話し合いは続く。
「『ミランダ
セバスチャンの言葉に、ミランダは目を丸くした。
セバスチャンはとんでもないことを言い出したものだ。冗談なのか? 本気なのか?
「セバスチャン、あなた! 頭がおかしくなったの?」
ミランダはセバスチャンをにらみつけて怒鳴った。
「グランバーン王国の
「その通り。今後、正式な『
「バカを言わないで!」
ミランダはバンと机を叩いた。
「誰からの命令なのよ!」
「『
セバスチャンは今、大変な、
自分の
意味が分からなすぎる。
「説明をしなさい!」
ミランダは怒りをしずめようとしたがムリだった。
「納得できない! ジョークならジョークと言いなさい、セバスチャン!」
「ジョークではありませんよ。まず、『G&Sトライアード』以外の
確かに――
ミランダは今日のトーナメントの試合をすべて観戦した。
ゼントVSクオリファ、サユリVSドリューン、ローフェンVSグスターボ以外は、全員、見どころのない判定勝ち。確かにほとんどの選手が、消極的な闘い方だった。
技術的に、お
しかし……。
「困るんですよねえ」
セバスチャンは、首を横に振りながら言った。
「
「私のところの、ゼント・ラージェントは最高の選手よ!」
ミランダの問いに、セバスチャンは嬉しそうに、パンと手を打った。
「そうですね! ゼント・ラージェント君は素晴らしい! 我が『G&Sトライアード』に所属してくれれば、それなりの地位を差し上げられます」
「またしても、バカを言ってるわね」
ミランダは立ち上がろうかという勢いだ。この奇妙な決定をするセバスチャンから、世の中の
「教えなさい! 何が狙いなの?」
「さっきも言ったでしょう? 魔物が人間を襲うことが多くなってきているのです」
セバスチャンは、目の前の
様々な魔物――火を吐くダークドラゴン、
七年前から眠り続けているとされる、「魔王ギランダーク」。ダークドラゴンらは、その手下たちだ。
「人類は、これらの強力な魔物たちを、歴史上2、3回しか倒したことがありません」
セバスチャンは言った。
ゲルドンが魔王の四天王、
ただし、四天王は候補が魔族にたくさんおり、倒してもまた
「七年前から、『魔王ギランダーク』は世界のどこかで自らを封印させ、力をたくわえるために眠っている」
セバスチャンは言った。
魔王は眠っているが、手下の魔物たちは、人間を襲い続けている。
「しかし、魔王が目を覚ませば――本物の戦争になります」
「だからと言って! あなたの決定に関していえば、疑問だらけよ!」
「――その時に必要なのは、『真の
死体の処理? 手間? 賃金?
人間の命をまるでモノのように……コイツ――セバスチャンの頭の中はどうなっているのか?
ミランダは、セバスチャンは腕組みして見るしかなかった。
「それなら、所属養成所をやめた
「……さあ?」
セバスチャンは首を
「そんなことは知らないなあ。実力のない
「……あ、あなた!」
ミランダは再び、机をバン、と叩いた。
「
「いやいや……。この世界は実力がすべて。そうじゃありませんか? 実力がないものはカス、ゴミクズ同然!」
「カス? ゴミクズ? 信じられないことを言うわね!
ミランダは反論した。
「格闘を通し、力が弱い者たちに、勇気を与える! 指導する! 愛情を教えるのも、
「古いなあ。能力のある者、才能のある者以外、いらないんですね。勇気? 愛? そんな幻想、試合や戦争、路上の実戦で通用しますか?」
セバスチャンはクスクス笑っている。
この野郎……ミランダはセバスチャンの胸ぐらをつかんでやりたい、と思っていた。
「結局、我が『G&Sトライアード』に所属すればよろしいのです。100万ルピーを払って、初級クラスから学んでもらいますがね」
「プライドが高い
「受け入れた方が、得なのになあ。良い指導が受けられるんですよ」
セバスチャンは思っていた。
そうすれば、グランバーン王に次ぐ、実質NO2の権力を持つことができる。
この世の「闘い」のほとんど――「戦争」すらも、支配する者となれるのだ。
その座は現在、父がついている――。
私がその座をいただく!
そのための準備段階に過ぎないのだ。
「サユリなど8名の武闘家を、我が『ミランダ
ミランダはセバスチャンをにらみつけながら声を上げたが、セバスチャンは静かに言い返した。
「そんなことを思い出させないくらい、『G&Sトライアード』が、あなたたちの選手を
「ゼント・ラージェントが、『G&Sトライアード』の選手なんて、怖れるほどでもないことを、証明するわ」
「ほほう? ゼント君がね……。ミランダ先生は、私たちの実力を疑っていると」
すると、セバスチャンはクスクス笑い始めた。
「……私は、トーナメントを見て、自分の血がたぎるのを感じて仕方なかったんですよ」
「……えっ?」
「よろしい。次の試合、私がミランダ先生のところのローフェン君と試合をしたい。私自身がトーナメントに出場しましょう」
「は? 何を言って……」
「私――セバスチャン自身が、ゲルドン杯格闘トーナメントに出場する! そう言っているのですよ。ローフェンの対戦相手は、悪いが
「ちょっと、何、わけのわからないことを……」
大勇者ゲルドンの秘書、そして「G&Sトライアード」の社長であるセバスチャン――ほ、本当に、自ら試合のリングに上がるというの?
ミランダは驚いて、セバスチャンの顔を見るしかなかった。
セバスチャンはただ笑っているだけだった。
その目は、実業家セバスチャンではなく、
恐ろしく鋭かった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。