第25話 第1試合だ! ゼントVSクオリファ!

「ゲルドン杯格闘トーナメント」に出場するため、中央都市ライザーンのホテルに宿泊した俺たち。


 次の日、ついに試合に出場することになった。1回戦だ!


 1回戦は「予選」のようなもので、開会セレモニー前に行われる。

 出場選手16名が8名にしぼられるのだ。


 ひええ~……試合なんて学生時代以来だ。第1回戦は、まだスタジアムでは試合できない。小規模の体育館で試合をする。


「うわ~、緊張する! 怖ぇよ~」


 試合1時間前――俺は、試合会場の控え室で真っ青になって、頭を抱えていた。緊張して仕方ない。

 エルサが杖をつきながらも、控え室についてきてくれた。


 俺の第1回戦の相手は――何と、あの大勇者ゲルドンの現在のパーティーメンバーだった。一番弟子の武闘家ぶとうか、クオリファだ。

 しかもクオリファの所属は、「G&Sトライアード」。グランバーン王国最大の武闘家ぶとうか養成所だ。Gとはゲルドンのことで、ゲルドンが社長をしているらしい。


 か、勝てるのか? 俺……。


「ゼント、武闘ぶとうグローブをはめるよ」


 エルサは杖を置き、俺の手に、武闘ぶとうグローブをはめてくれた。武闘ぶとうグローブとは、格闘技の試合の時に手にはめる、指が出ているグローブのことだ。

 指が出ているので、相手をつかむことができる。


 エルサはグローブをつけた俺の両手をにぎって、俺の目を見てこう言った。


「大丈夫だよ、ゼント。あたしがいるよ。神様が見てるよ。君の努力、くやしさ、悲しみ、全部、神様が見てくださっていたんだよ。きっと、それがむくわれるよ」

「え? ああ……」

「だから……自分を信じてね」


 なんだ? 俺の心が、少し熱くなったように感じた。


 ちなみに俺のコスチュームは、エルフ族特注の青い武闘着ぶとうぎだった。エルサとアシュリーが、村で作ってくれた。


 ◇ ◇ ◇


 リング上ではすでに、武闘家ぶとうかのクオリファが腕組みして待っていた。


 ニヤニヤ笑っている。


 俺は、緊張しながらリングに上がり、ロープをくぐった。ゲルドンはこの試合会場にはいないらしい。


「おめぇか? もともとゲルドンさんのパーティーメンバーだったっていう、ヘタレ野郎は」


 クオリファはクスクス笑っている。赤い武闘着ぶとうぎを着て、気合十分だ。


「何だか知らねーけどよ。ゲルドンさんに挑戦するんだって?」

 

 ギャハハ! セコンドにいるクオリファの付き人たちもゲラゲラ笑っている。


「あのゼントってヤツ、バカじゃねーの」

「見るからに弱々しいあいつが?」

「身の程知らずにも、程があるってもんだぜ」


 今の俺の体は、身長162センチ、体重55キロ。しかしクオリファの体は、身長188センチ、84キロらしい……。


 ハハハ。こいつはひどい差だ。笑うしかない。


『私語はつつしめ!』


 審判席の審判が、魔導拡声器まどうかくせいき――魔法の力で声を大きくする魔道具――で声を上げた。


「ゼント! 集中!」


 セコンドの方から声が上がった。う、うわっ! エルサがセコンドについている!


「お、お前、そんな体調で、セコンドなんて大丈夫なのか?」

「大丈夫! あたしもセコンドとして、闘う!」


 カーン!


 リング外のエルサと会話をしている間に、試合は始まってしまった。


「さーてと……おーら? どうすんだ?」


 シュッ


 クオリファは半笑いで、軽い横蹴りを繰り出してきた。

 一発、二発、三発……そして、華麗かれいな回し蹴り!

 観客がどよめく……が!


 ここだ!


 俺はすぐに、彼のふところに飛び込み、左ジャブを突き出した。

 クオリファは、「おっ?」と声を出し、ふっとける。


「ん? ちょっとは早いじゃねえか」


 クオリファが体勢を立て直し、一歩前に出て、余裕の下段蹴り――。


 見えた! 俺は飛び込んだ!


 ガスウッ


 俺の素早い、右ストレートパンチ!


 このパンチは、完全にクオリファの右頬みぎほおをとらえていた。クオリファが前に出ると同時に放った、カウンター攻撃だ!


 ――彼の体がかたむいた。


「なっ……」


 クオリファが後退しかかった。


「お、お前……ゼント! い、いや、まぐれだ。そうに違いねえ」


 クオリファはあわてたように、一歩前に進み出た。


 もらった!


 俺は下段蹴りで、クオリファの足をった!


 ガッ


「なっ!」


 クオリファはバランスを崩しながら、声を上げる!


 ドタアッ


「うっ!」


 俺はクオリファの足をって、クオリファを転倒させた! ヤツは見事にひっくり返って、背中を武闘ぶとうリング上に打ち付けた。


「な、なんだと……!」


 クオリファは驚きの声を上げる。

 

 この技は、蹴り技ではない! 転倒させて背中から落とす、いわば足を使ったり技だ! クオリファは蹴られたダメージよりも、転ばされて背中を打った、という精神的ダメージが大きいはずだ。


「て、てめえぇ~! 生意気だぁあああ!」


 クオリファはあわてて立ち上がり、向かってきた。そう、この技をくらった者は、あせってこうなる!


 ビュッ


 クオリファの左中段回し蹴り! 良い蹴りだが……俺は見切った!


 ここっ!


 俺は、クオリファの蹴り足をつかんだ! 彼の左足を、わきに抱えたのだ。これは蹴り技に対する防御技術だ!


「お、と、と」


 当然、クオリファは片足で立っているので、バランスをくずさざるを得ない!


 俺はクオリファの肩を思いきり押し、1メートル半突き放して――!


 全速力で向かっていった。


「お、おい! や、やめ……!」


 クオリファは目を丸くしている。――俺は飛んだ――。


 ガッスウッ


 右飛び膝蹴ひざげりだ! 俺の右膝みぎひざが、クオリファのアゴに当たった! 完璧な手ごたえ!


「グフウウウッ」


 クオリファは大きく吹っ飛び、尻もちをついた。


 しかしクオリファは、あわてて立ち上がろうとした。舌打ちして、「へ、やるじゃねえかよ」とつぶやいている。


 ムダだぜ、クオリファ。お前はアゴの急所にくらった! そうなると、どうなるか?


 クオリファは立ち上がろうとして、ひざに手をつく。


「え?」


 しかし、クオリファはグラリと体を揺らし――。


 ドタッ


 彼は、右にまた転倒した。


 ウ、ウオオオッ……。


「え? クオリファが……?」

「何だ? おい、何が起こっているんだ?」

「お、おい。ダウンか? ゲルドンの弟子がダウン?」

「何かの間違いじゃねーの?」


 観客がざわざわと騒ぎ始める。何かが起こっている、と。


『クオリファのダウンです! 1……2……3……!』


 ダウンカウントが審判席から数えられる。


 ウオオオオオオオッ……。


「きたああああーっ!」

「クオリファのダウン!」

「ゼント、何者だ?」


 少ない観客が声を上げる。


 俺は、開始35秒で、ゲルドンの一番弟子をダウンさせた!

 クオリファは、リングに片膝かたひざをつき、目を丸くして、俺を見上げていた。


「お、おい、何かの間違いだ……そうだろ? おい」


 クオリファはブツブツ言いながらも、ギロリと俺をにらみつけて言った。


「ゼント、お前……。一体、何者だ? い、いや、そんなことはどうでもいい!」


 クオリファは立ち上がろうとしながら、えた。


「分かっているだろうな! 俺にはじをかかせやがってぇ……!」

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