「4−9」無能勇者、はじめてのおつかい③
抜き足差し足忍び足。物音を立てず、気配を消し、時々呼吸すら止めてみせた。
自分には暗殺者の素質があるのかもしれないと、勇者にあるまじきことを考えてしまう。だって魔物が隣にいても完璧に気配を消し、道端の石ころのようにどうでもいい存在として在ることができるのだ。
(このまま魔王も暗殺しちゃおうかな……)
なんて、勢いだけで行動してはいけない。未熟な俺一人で暗殺できるなら、各国指折りの暗殺者たちがとっくに世界を救っている。仮に成功したとして、残党の魔物たちが俺を生かしておくはずがない。
それにしても広い城だと思った。壁も丈夫、通路も広い……見栄えは魔物の完成によって作られているのか、魂が拒絶するような完成美があった。
この城がどこに建てられているのかは知らないし、今まで何処にあったのかなど、一つとして定まった情報はなかった。ーーだが、こんなに立派な城を、魔物たちはどうやって、人間に気づかれずに作ることができたのだろうか?
それもこれも、俺が生きて帰らなければ始まらない。俺がこの城の情報を持ち帰れば、人類にとっての大きな希望になる。それで俺が許されるわけじゃないけど、きっと……他の誰かが、勇者にふさわしい人の手助けになれるはずなのだから。
(頑張らないとな)
より一層息を殺し、ゆっくりと、しかし迅速に赤い魔力の残滓を追った。ーーすると突然、それが途絶えた。
(……ここか)
見上げると、そこには物騒なデザインが施された、鋼鉄の扉があった。
俺は恐る恐る扉に触れて、結界やら罠やらが仕掛けられてないことを念入りに確認した。少し押してみると……開いていた。
音を立てないように扉を前に押し、誰もいない隙に部屋に入ってしまう。部屋に入ると分かるが、かなり広い空間だった。暗かったが、音の反響でなんとなく分かる。
習得していた魔法の内、光にまつわるものを使用する。それは部屋全体を照らし、俺に部屋の全貌を見せてくれた。槍、斧、剣……様々な武器が貯蔵されている。ここは、武器庫だ。
「あれだ……!」
その中で唯一、俺の目を引く赤がある。ボロボロであっても妙に美しい、赤色のマントだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます