「2-11」無能勇者、絶体絶命
「あー、なるほどなるほど……」
そうか、イグニスさんは仲間にしてほしいのか。
……ん?
今、イグニスさんはなんて言った?
「これも、何かの縁だ。ガド殿、捕まっていた所を助けてもらった分際で言うのもおこがましいのですが……私は貴方の旅路に、大きく貢献できると思っています」
「ちょっと待って、どういう事? え、なんで?」
ちょっと困惑しすぎて何が何だか分からない。何で急に? 助けたから? ピーチ太郎みたいな展開? いや冷静に考えてみろ、明らかにおかしい。
「あ、あの……気持ちはありがたいんだけど、その」
「私の実力を疑うのも無理はないでしょう。ですが、必ずお役に立つことを約束します。――油断と慢心の結果、囚われた私を救っていただいた貴方への恩、返さずにはいられません」
駄目だ、この人は話を聞かないタイプだ。もうバッチリ俺の旅についてくる気だ……説得して元居た場所に帰って頂きたいが、何しろここは既に竜の巣、いつドラゴンが襲ってくるか分かったもんじゃ……。――その時だった。静寂を打ち破る程の咆哮が、俺の鼓膜を叩いたのは。
『グォオオオオオオオオオオッッッッヅヅヅ!!!』
耳ではなく剣を握ったのが正解だった。突如飛来したドラゴンの爪を反射的に受け、逸らし……返す刃で殴り落とした。たまたま刃が首元に当たったため、潰れた喉笛を鳴らしながら、そのドラゴンは絶命した。
「はぁ……はぁ。っっ!?」
安堵したのも束の間、今度は二体同時に急降下してきた。一体の空中戦を捌き切る事に夢中になってしまい、俺はもう一方から一撃を受けた。背中に抉り込んだ爪が、熱い痛みを増加させた。
「ガド殿!」
イグニスさんの声と同時に、目の前と後方から鮮血が飛び散った。恐らくはドラゴンの返り血だろう……視界の端に、長い西洋剣を持った彼女の姿があった。
「ご無事ですか⁉」
「な、なんとか……うっ!」
「動かないでください、今、回復の魔法を!」
柔らかな手が傷口に触れ、一瞬痛む、しかしすぐに痛みは心地よさへと変わり、しばらくして痛みは消え去った。回復のスピードから察するに、魔法の腕はマーリンさんと互角なのではないかと思える程だった。
「ありがとう、助かった! でももう逃げて、俺は大丈夫だから!」
「たった今死にかけてた人が言うセリフではありませんね! いやまぁ私も言えませんけど!」
空を見ると、そこには無数の飛竜が滞空しながら、俺とイグニスさんの隙を伺っていた。数は十、二十……下手したら、まだまだ来るかもしれない。
「……ごめん、イグニスさん」
「なんですか?」
「背中、預けてもいいかな?」
「――ええ、勿論ですとも」
前を俺が、後ろをイグニスさんが構え、四方八方には無数の飛竜が群がっている……。絶体絶命の状況、なのに、俺は……『頼れる仲間ができた』という、たった一つの事実だけで、安心してしまっていたのだ。
(ほんと、ダメな勇者だな)
自分で自分を笑いながらも、俺は自分の責務を果たすべく、向かってくる飛竜に剣を振るった。
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