「2-8」無能勇者、打開策は粘土
こんがり肉は全部で十本。その内の三本を手に取り、残りをポケットの中に戻す。
次に俺は、香りが倍増する魔法をかけた。普通なら料理人が使うような魔法だが……今から俺がやろうとしているのは、本来の使い方とは全く違う。
(上手くいってくれよ)
祈りながら、俺は旨そうな匂いのする肉を投げた。
『グァォォオオ―――!!』
三匹のドラゴンの内、一体がこんがり肉に向かって走っていく。それに釣られた二体も後をついていき、気が付けば檻の周辺には俺だけが居た。――作戦は大成功。食べ物に釣られたドラゴンたちは、俺になんか気づかないまま看守の役目を放棄した!
(今だ!)
気配を消す必要も無く、俺は檻に向かって走り出した。あの陽動はすぐにばれるだろう……持って三分。その間にあの檻を破壊し、中にいる少女を救い出す!
「大丈夫ですか⁉」
意識は無いが、息はしている。顔色も……良くは無いが、すぐに死にそうなわけではない。問題はこの鋼鉄の檻を、どうやって破壊するかという話だ……曲げることは不可能、破壊するにも俺なんかの剣術じゃ不可能。無理やり聖剣を使うという手もあるが、加減ができないため中にいる少女ごと切ってしまうかもしれない。
(畜生! ここまで上手くいったのに……肝心な所を考えていなかった!)
考えろ、考えろ、考えろ! 何かあるはずだ、この子を傷つけず、それでいて迅速に救い出せる方法が! 心音がひどくうるさかった、地面が震える度に……背後を見るのが怖くなった。
(そうだ、ポケット!)
さっきもこのポケットで打開策を手に入れた、今度もきっと何かあるはず! 俺は急いでポケットの中に手を突っ込み、何かを、掴んだ。
「こ、これは……!?」
いくらなんでもそれは無いだろ。そう言いたかった俺の手が握っていたのは、本ぐらいの厚さと大きさの粘土だった。
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