【四十七.不合格】

 あーん。あーん。


 かいちゃんが大泣きしている。わたしも大泣きしている。

 お父さんがお母さんを叩いたから。頬を抑えながら、お母さんはお父さんを睨む。見たことも無い、とても怖いお顔で。そして、叫んだ。


「かいりだけは、かいりだけは連れていくからね!」

「勝手にしろ!」


 うわーん。うわーん。


「お父さん、お母さんを止めてよう。かいちゃんとお別れなんて、いやだよう。かいちゃんはなぎさがまもるの」


 えーん。えーん。


「お母さん。返してよ、なぎさのかいちゃん、返してよう!」

「おねえちゃん、おねえちゃん!」


 その日からわたしたちきょうだいは、永遠に離れ離れになった。


 ……


 四月十六日。日曜日。午後零時十分。わたし、十五歳。かいちゃん、十四歳。

 ……ちゅっちゅ。この歳になってもわたしは指しゃぶりが治らない。


「はあっ、はあっ」


 今の時期は使われていない、誰もいないプールの男子更衣室。暑い、蒸し暑い室内。かび臭い木のスノコの上で。わたしの上に森田りく君は、目をつぶって息を荒くして。汗を滴らせている。


「はっ……はっ……ふふ、上手、上手ね。……はあ、はあ、初めてなのに、とっても上手に出来ました」


 わたしも汗で頬を濡らしながら、年下の男の子の頭を、優しく、優しく撫でた。彼が脚を開いたわたしから。お腹の中がとっても熱いもので満たされて。その熱とにおいと……背徳感だけで。わたしは大きな声を上げて、身体を仰け反って果ててしまった。


「ねえ、もう一回。……ねえ」


 裸の年下の男の子がそう言ったので、今度はわたしが上に乗ってあげることにした。彼は寝そべって、わたしを受け入れた。


「はあっ、はあっ」


 も、それはそれはあっという間だった。


 ……


 ごめんなさいね。森田りく君。

 残念。とっても残念だけど。


 きみの採用試験は、不合格。


 残念だけどきみはわたしのかいちゃんには渡せない。

 こうやって、、その欲望を向けていてね。

 これからも、ずっと、ずっと。……ね?

 きみはわたしだけを……見ていればいいの。


 そう、上手、上手ね。

 いい子ね。いい子ね。


 ……ピンコン。


『お姉ちゃん。ねえ、今どこにいるの。返事してよ。ライン見てよ』


 また、わたしのスマホが鳴った。

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