【四十五.おとうとの想い人・二】

 四月十六日。日曜日。午前十時一分。わたし、十五歳。かいちゃん、十四歳。

 今日はいいお天気。空は春霞っぽく薄い水色で、綿みたいな雲があちこちに薄く伸びている。お日様はさんさんと身体を温めてくれる。

 内股で歩く可憐なおとうとのローファーを追いかけて、グラウンドの脇に着く。伸びる白い脚は、そんじょそこらの女の子より全然綺麗。……わたしより、綺麗かも?

 試合はちょうど始まったところ。グラウンドの中央で、エース達がボールを取り合いしている。


「ね、どっちがかいちゃんとこの?」

「青。青いユニフォームのほう。赤い方が、相手チーム」


 えんじ色のその相手は、隣の学区の、番号が名前の中学校。強豪らしくて、何日も前から対策トレーニングをしてたらしい。ちょっと、押されているようにも見える。……素人だからよくわかんないけれど。


「そういえば、珍しいね、かいちゃんが学校行事にお姉ちゃんを呼ぶの」

「そういえば、そだね」

「どうしてサッカーの試合なの?」

「うち、サッカー部のマネージャーのお友達、いるって言ったじゃん?」

「うん、えと、なんとかちゃん」

「みそらちゃんだよ。それでね、お手伝いさせてもらえるようになったの」

「へえ、かいちゃんがマネージャーねえ」

「うん」


 かいちゃんは、わたしに説明をしながら、グラウンドを縦横無尽に駆け回るサッカー部員たちを目で追っている。……そんなかいちゃんを見ていると、試合ではなく、特定の選手を見ていることに気がついた。


「それでね……あのね、うち、それでね……あっ、りくくーん!」


 可愛いおとうとが、とってもキュートな声で呼びかける。中学三年生になっても声変わりしてない、可愛いわたしだけのおとうと。髪型も、制服姿も、脚も、声も。わたしみたいにEカップある胸が無いことを除けば、言われないと決しておとこの子だなんて、誰にも思われないだろう。


「おねえちゃん、見て見て」

「なになに?」

「ほら、あの背番号三番の……フォワードなの。わかる? ……ほら! 今ボール蹴った」

「うんうん」

「あのね、うちね……あ、いけるいける! りくくーん! シュートだよシュート! ああっ、おしーい!」

「……そっかぁ」


 わたしは、シュートが外れて落胆するかいちゃんを見た。とても優しい顔を作って。


「かいちゃんが好きになったのって」

「……うん。りくくん。森田りくくん。……かっこいいんだ」


 かいちゃんは、柔らかそうなほっぺたを赤くして、もじもじする。

 そっか。わたしは笑顔で答えた。


「良かったね、かいちゃん!」

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