初夏

@hima4200

第1話

梅雨予報は一週間も先なのに

近頃は雨の日が続いていた。


私は玄関で傘の雫を落としたあと

シャワーを浴び

ガスコンロで淹れたココアを片手に

縁側に腰掛けると

ぼんやりと目に映る景色を眺めていた。


雨の匂いと惑う独特の空気感

頬を吹き抜ける風

樋から不規則に流れる水の音

降り頻る雨の中、時より遠くで唸る雷鳴


水滴が素足の上を幾度となく弾いては

庭は項垂れる藤の花や

茂り始めた青葉、アサガオたちで覆われ

一面鮮やかに彩られていた。


縁側は寝そべると床がひんやり冷たく、

畳の薫りがくすぐったく感じた

ボンボン時計の時報に

いつもよりゆっくり時間が流れている

感覚が身体中をしきりに巡った


私は夏が始まる前に訪れる

この特別な時間がたまらなく好きだった。 


あらゆる事は始まればいつかは終わる

それは決定事項であり、この世界における

不変の摂理である事実からは

誰しも逃れることは出来ない訳だが、

頭では分かっていても

悠久を感じさせるこのひと時を

自分の中で一纏めにし

片時たりとも手放しくない。

そう強く願っていた



それから数日が経ち、天気予報では

梅雨に差し掛かったが

嘘の様に晴天の日が続いた

蒸し暑い日が続き、気だるさが残る中で

長く続いたあの日々が随分と昔の様に感じた

教室の窓から聳え立つ蒼空に

また雨がいっそう恋しくなっていた。

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