僕に恋愛は難しい

宮田弘直

初登場は裸

「キャー!」


女子の悲鳴が室内に響き渡る。

扉が開かられた瞬間、俺こと幸有大吉は全てを諦めた。

また、いつものパターンだと。

現在の場所は千葉県にある海浜高校の体育倉庫。

体育倉庫と女子の悲鳴、この二つが合わされば、なんとなく着替えを覗いてしまった現場だと察せられるだろう。

不可抗力ながらあられもない姿を見てしまった事を謝りながら慌てて扉を閉める。

本来ならこのようなお決まりの流れで進んでいくはずだ。

もはや様式美である。

しかし、俺は裸の描写を細かくしたいとは思わない。

なぜなら……


「急いで着替えようとしたのに、間に合わなかったか……」


室内にいたのはパンツ一丁の男ただ一人。

着替えていたのは俺だったのだ。

……このシーンはどこに需要があるの?


 慌てて着替えて準備室から体育館に出ると、先程の女子を発見し、平謝りした後、素早く撤退。

今は幼稚園からの幼馴染の谷村美咲と香西拓磨と下校している最中だ。


「男子にとっては嬉しいハプニングなのにまさか立場が逆でそれすら生かさないとは、やっぱ大吉は持ってるな」


ツボに入ったのだろう。

拓磨の笑いは止まる様子がない。

その拓磨の後頭部が突然、弾かれて吹き飛ぶ。

美咲が勢い付けて叩いたのだ。


「逆だったら、もっと駄目でしょ!」


「悪かったって!そんな怒るなよ」


「まったく……」


美咲は拓磨を睨むと、今度は俺の方を向いたので、何か言われるのかと身構えてしまう。


「帰りのホームルームで藤田先生が大吉はハードルを直しているからこのまま始めるぞって言った瞬間にまさかとは思ったけど…… 良いことしたのに結局謝る羽目になるなんて、拓磨じゃないけど、やっぱ持ってるよね」


「あぁ、流石マーフィーだ」


マーフィーとは、数々の言葉を残した宗教家だ。

拓磨が言っているのは、マーフィーが残した法則で、その名もマーフィーの法則である。

その法則は至って単純、『失敗する余地があるなら、失敗する』である。

つまり、二人の目には何かある度に失敗する方へ転がっていくマーフィーの法則の体現者と写っているのだ。


「今日も法則を発動させちゃったよ」


拓磨の発言にこちらもおちゃらけて返しながら先程の体育倉庫の件を思い出す。

事の発端は今日最後授業の体育まで遡る。

授業の内容はハードルで、その最中、ネジが緩んでいるハードルを見つけ、その事を体育の担当教師でもある藤田先生に伝えるとホームルームは出なくて良いから直せとのご命令。

その後、直し終わり、着替えていた時に部活の準備の為体育倉庫に来た女子が扉を開き、セクシーシーンの披露となってしまったのだ。


「そういう時に限ってホームルームが早く終わったクラスがあったっていうのもマーフィーだよな」


「そもそも、なんで体育倉庫で着替えたのよ。隣が更衣室じゃない」


「俺が持って行ったんだよ。盗まれたら大変だろ?」


すると、美咲の表情が厳しくなる。


「…‥本音は?」


拓磨はわざとらしく視線を逸らした。


「面白そうだったから」


「やっぱ拓磨が原因か!」


スパーンと拓磨の顔が弾け飛ぶ。


「でも、そもそも大吉も頼まれた時に断れば良いんだよ。そういうところがお人好しだよな」


「まぁ、頼まれたからね」


「人助けするのに気が付いたら全然違うところに着地してるからよね。だからこそ大吉は自分の行動で他人に与える影響力を考えて自覚ある行動をしないと」


「俺は著名人か何かなの?」


「まぁ、とにかくナイスマーフィーだよ」


「大体分かるけど、ナイスマーフィーって何?」


「翻訳するとナイスアンラッキーだな」


「英語から英語に訳されただけだった……」


俺が頭を抱えると拓磨が俺の肩に手を乗せる。


「まぁ、要は良くない事があったけど、ドンマイって感じだな」


「なるほど、そう言われると励まされている感じがするね」


納得し、うんうんと頷いていると、それを見て美咲は可哀想な物を見る目でこちらを見ていた。

何か変な事を言ったのかと思い視線で問いかける。


「面白がられているだけよ」


「まぁ、失敗談は笑ってもらえると俺も気落ちしないで済むし」


「本当お人好しなんだから」


そう言うと美咲は微笑みながらため息をつくのだった。



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