107_垣間見える力
目の前で蠢く植物型の魔族が、突如ビクリと身体を震わせ、ギョロリと眼を剥いてこちらを振り返った。その視線がルーシェたちを捉えた瞬間、ぞわりと空気が凍りつく。
「なっ、なに見てんだよぉおおおおおッ!!」
絶叫と同時に、魔族の長い蔓がうねるように伸び、蛇のような軌道でルーシェたちに襲いかかってくる。
「あなたと遊んでいる暇はないんです。ここから立ち去ってくれませんか。そうすれば……命までは取らずに済みます」
静かだがワイトの鋭い声が響いた。ルーシェがハッと目を向けると、いつの間にかワイトが魔族のすぐ側まで接近していた。伸びて迫っていた無数の蔓は切り落とされ、萎れたように地面に落ちている。
「ぐっ……!?人間が……小賢しい……っ!どんな手を……いや、もうどうでもいい!くたばれええええええぇぇぇぇッ!!」
怒声とともに魔族が凶悪な殺意を放つ。
「去ってくれないようですね。ならば……お命、頂戴します」
冷徹な声とともに、ワイトの刃がすっと風を切り、瞬きよりも速く魔族の首を斬り飛ばす。生ぬるい空気を切り裂き、頭部が宙を舞った。
「えっ……?」
ルーシェの口から驚きの声が出た。
「……うそ、だろ……」
空中で回転する魔族の頭部が、間抜けな表情のままかすれ声を漏らす。
ドサリ、と首のない身体が崩れ落ちた。ワイトは表情一つ変えず、刀を鞘に納めた。
「意外と、あっけなかったですね」
だが、安堵の余韻に浸る時間は許されなかった。
「ワイト、危ないっ!まだ……終わってない!!」
ルーシェの叫びと同時に、まるで鋼鉄でできた刃のような葉が、音もなくワイトに迫る。鞘に手を置いた彼に反応の暇はない。
「守りの力……」
ルーシェが両手を組み、呪文を詠唱する。その瞬間、ワイトの胸元の結晶が煌めき、半透明のシールドが展開された。
バチィッ!!
鋼鉄の葉がシールドに弾かれ、激しい火花を散らす。空気が一瞬、焦げたような匂いに満たされた。
「もう二度と……大切な人を、目の前で死なせたりしない!」
闇の奥に広がる気配に、ルーシェが拳を握りしめて叫ぶ。その瞳には、恐怖に屈しない強い意志が宿っていた。
「助かりました、ルーシェ。……あの数は、なかなか厄介ですね」
ワイトが目を細めて前方を見据える。その先から、異様な数の植物型の魔族たちが、狂気じみた笑みを浮かべながら、ぞろぞろと姿を現した。
「いい気になるなよ、人間どもが」
「いい気になるなよ、人間どもが」
「いい気になるなよ、人間どもが」
「いい気になるなよ、人間どもが」
「いい気になるなよ、人間どもが」
「いい気になるなよ、人間どもが」
「いい気になるなよ、人間どもが」
「いい気になるなよ、人間どもが」
無数の声が重なり、空間そのものが不気味に共鳴する。音が波となり、耳にまとわりついてくるようだった。
「……声が重なりすぎて、何を言ってるか分かりませんね」
ワイトが静かに刀を引き抜く。鋭い金属音が、緊張をさらに研ぎ澄ませる。
「あなたたちには、用はないの。さっさとどいてくれるかしら」
ルーシェが手のひらに守りの力で光を集める。凝縮された魔力は小さな球体となり、淡く輝きながら浮かんでいる。その口調は静かだが、どこか怒りを孕んでいた。
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