35_風の力

「魔物に育てられた……どういうことなんだ、それ」


 ダンテの問いかけに、メイテツは少し沈黙した後、答えた。


「私がまだ人間だった頃の記憶が見えたの。私は、なぜか魔物の親に育てられていた」


 ダンテが神殿に眠っていた光の球体に触れたことで、メイテツは失っていた記憶の一部を取り戻していた。


 それは、風を操る魔物がまだ赤ん坊だったメイテツを森で拾い育っててくれた記憶。メイテツを育てた魔物は人の見た目に近い魔族と呼ばれるタイプの魔物で、リヨという名前だった。


 メイテツは思い出した記憶をありのまま、ダンテに伝えた。ダンテは、腕組みをしながら、真剣に彼女の話を聞いた。


 彼女の話を聞くうちに、彼の中で幾つもの疑問が生まれた。


「メイテツは人間だったのか。それがどうして邪剣なんかの姿になったんだ?」


 ダンテはメイテツに疑問に感じたことを尋ねる。


「分からない。だけど、きっと残りの神殿を攻略し記憶を取り戻せば、どうして私が邪剣となったのかも分かるかもしれない」


 メイテツは、残念そうな声が聞こえた。


「そうか、なら、残りの記憶も取り戻さないとな」


「ダンテ……ありがとう」


 メイテツは、ダンテの言葉に嬉しそうに答えた。


 すると、左腕のメイテツの身体に変化が起きる。黒色だったボディは、綺麗な緑一色にみるみるうちに変わる。


 口をポカンと開けて、その様子を見ていたダンテは慌てて叫んだ。


「メイテツ、なんか色が変わってないか!?」


 メイテツは、慌てるダンテに冷静に答えた。


「記憶とともに、失っていた力を取り戻したみたい。今だったら風の力を使えると思う」


 メイテツの言葉に、ダンテは、首を傾げる。


「風の力だって……どんな力なんだ?」


 メイテツの言う風の力というものが一体、どのような力なのか、ダンテにはよく分からなかった。

 

「風の力は、育ての親リヨが使った力よ。私が緑色の状態だと、風を生み出すことができるの」


「風を生み出せる力。なんだか面白そうだな。どうやって使うんだ?」


 ダンテは、未知の力との出会いに妙な高揚感を抱く。


「左手を前に出してみて」


 メイテツの指示に従い、ゆっくりと左手を上げた。


「こうか?」


「ええ、左手から風を生み出すイメージをしてみて。それで風を生み出せるはずよ」


 ダンテは、さっそくメイテツの言われた通り左手から風を出すイメージをしてみる。すると、左手に大自然のエネルギーであるピュアが集まり始める。


 あっ、これやばいかも。


 ものすごい勢いで集まり膨張したピュアのエネルギーにダンテは咄嗟に身の危険を感じた。

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