25_衝撃

 影はダンテから距離をとるようにものすごい速度で移動していく。


 距離をとられるとまずい。


 ダンテは、離れていくフエンの影を逃すまいと地面を思いっきり蹴飛ばし追いかける。  


 これは、あの魔族が見せた最初で最後の隙かもしれない。この勝機を逃すわけには行かない。


 ダンテは、全身全霊で手足を動かし駆けて少しずつ距離を詰めていく。


 手足が痛い。体が悲鳴を上げている。だけど、あと少しだ。あと少しでこの剣の先が、届くところまで行ける。最後の最後まで足掻いてやる。


 ダンテは闘志を激しく燃え滾らせて、フエンに一撃を加えようと、左腕の剣を振り下ろそうとした時だ。


「これ以上、お前たちと遊ぶつもりはない。消えろ」


 フエンがカカと呼んでいた細身の男の声が横から聞こえた。ダンテの俊敏な動きにいとも容易く追いつき、右手を出す。


 何をする気だ。とても嫌な予感がする。


 ダンテは、カカの右手にただならぬ危機感を抱き立ち止まると、瞬時に左腕のメイテツを変形させ盾の形に変える。さらに自身のマナを纏わせて防御力を強化する。ダンテの取りうる最大の防御。これで、大概の攻撃には耐えられるはずだった。


 だが、カカの攻撃は、ダンテの想定の遥かに凌駕した。


 カカの右手に禍々しいマゴが集まったかと思うと、凄まじい衝撃波がダンテを襲った。一瞬で、ダンテの盾にヒビが入ると砕け散り、勢いよくダンテの身体は吹き飛ばされる。


 吹き飛ばされたダンテの身体は、村の建物に幾度もぶつかり貫通してもなお、いきおいが止まらない。


 意識が、飛びそうだ……。


 身体にマナを纏わせ、ダメージを軽減したとはいえ、カカの右手から放たれた衝撃波の威力は甚大なものだった。


 そのまま、エウノキ村の外まで吹き飛ばされる。世界樹の外側を落下していく。


 体に力が入らない。身体の骨のいくつかが、折れてる感じだ。


 ダンテは先程の攻撃で何本か骨折してしまっていた。それに、徐々に視界が暗くなり意識がとおのいていく。


 これはやばいな。落下して俺は死ぬのか。


 そう思い、ダンテは瞳を閉じた時だ。


「ダンテ!」


 暗闇の中に、彼の名前を叫ぶ声がした。その叫び声を聞いてはっとダンテは目を覚ます。


「ダンテ、こんなところで死んでもらっては困るわ。あなたは、私が認めた剣士なんだから」


 ダンテの目を覚ましたのは、左腕のメイテツの声だった。


「メイテツ、ありがとう。目を覚まさせてくれて。こんなところで終わるわけには行かないんだ。テラ、ハンナ、エウノキ村の人たちがいる」


 ダンテは、落下しながら上に見えるエウノキ村の方に視線を向けた。


「必ず、そっちに行く!少しの間待っててくれ!」


 そう叫ぶと、世界樹の根もとの暗闇へとダンテは消えていった。

 

 

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