魔族襲来編

20_魔族

  空前絶後の天変地異が起きた後、ダンテは慌ててハンナやテラとともに虹の神殿を出た。


 虹の神殿を出た瞬間、昆虫型の魔物たちがあちらこちらに飛び交い、村の人々を容赦なく襲う悲惨な光景が彼らの視界に飛び込んできた。


「これが、女神が言っていた災いなのか」


 ダンテはぎゅっと拳を握りしめ、目の前の光景に憤りを覚えながら言った。


「村の周りの魔法壁が崩壊してる。それで魔物たちが侵入してきたんだわ」


 ハンナは、魔物たちが村に侵入してくる様子を観察しながら、冷静な口調で言った。


「みんな、行こう。村の人たちを放ってはおけない」


 ダンテは、そう言うと片腕を剣に変形させ、魔物に囲まれ助けを求める村人たちのもとへと、急いで向かった。


「ああ、行こう」


 テラも、続いてダンテの後を追う形で魔物に襲われている村人のもとへと向かう。


 脱力。


 ダンテは、全身を脱力するのではなく、足部のみ脱力することで、身体的負担を減らしつつ、俊敏な動きを実現していた。


 大きな口を開け、村人に食らいつこうとしている魔物たちをあっという間に、片腕の剣で切り裂き光の粒子へと変えていく。


 ダンテは、周囲を警戒し剣を構えていると、後ろから声が聞こえた。


「お前は何者だ?」


 ダンテの背後から話しかけたのはギリだった。ギリは突如現れたダンテに対して不審感を抱いているようだ。


「俺はダンテ。1000年前から来た剣士だ」


 ダンテは、一言そう答えた。まだ周囲に跋扈する魔物たちと相手していることもあり、一から自己紹介をしている余裕はなかった。


「1000年前から来た剣士だと……」


 ギリは目を細め、不審な目でダンテを見る。


「ダンテ、こっちは、倒したよ」


 テラも、母親とその子供を襲おうとしていたムカデ型の魔物をすでに倒し光の粒子にしていた。


「どうやら、魔法が使えないみたいね」


 ハンナは、杖を使い魔法を使おうとするがなんの変化も起きない。女神の予言通り、魔法を使用できなくなっている現状を理解した。


「ハンナ」


 ギリは、ハンナの姿を見て思わず彼女の名前を呟いた。


「あら、ギリ。その様子だと、あなたも魔法が使えないみたいね」


 ハンナは、ギリの方に振り返り言った。ギリは悔しそうに奥歯を噛み締める。


「魔法が使えればこんな奴ら一掃できるのに……」


 ギリはゆっくりハンナから顔を背ける。


「ここは、あらかた昆虫型の魔物たちは、倒し終えたみたいだ」


 ダンテは、襲ってきた残り1体の魔物を擦れ違い際に片手の剣で倒した後、周囲を見渡し言った。


 その直後だった。どこからかそんな不気味な声が響き渡る。


「邪剣を持つ者、その邪剣を破壊する」


 そんな声が聞こえた瞬間、ピカッと一瞬黒い閃光が煌めく。


「なんだ!?」


 ダンテが眩い漆黒の光に気づくも、数秒後、ある一点から黒色の光の線が、勢いよく大気を穿ちながら直進し、彼に直撃する。


「「ダンテ!!」」


 黒色の光に包まれ見えなくなったダンテの身を案じ、思わずハンナとダンテは一斉に彼の名前を叫んだ。


「ヒヒヒヒ、この私が邪剣を持つ者を始末した」


 ハンナとダンテのいる場所の上空から、声がした。


 すかさず二人は、空を見上げると、そこには黒い水晶玉を両手を持ちあぐらをかきながら宙に浮く老人がいた。ほぼ人間のような姿形をしているが、額には二本の角が生えている。この世界では、魔族と呼ばれる存在だ。


「魔物たちを侵入させたのもあなたの仕業かしら」


 ハンナは冷静に宙に浮かぶ老人に尋ねる。それに対し、老人は、四方八方に目玉をしきりに動かした後、ハンナとダンテの方に視線をやる。


「オフこーーす!!私の名は、ラオ厶。今からこの村は、私たち〈天〉のものだ」

 

 ラオムは、盛大に両手を開きそう叫ぶと、にやりと笑みをこぼした。

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