両思い←片思い←片思い

ネルシア

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「ねぇ聞いて!!ついに彼と付き合うことになったの!!」


目を爛漫と輝かせる誰が見ても可愛いと表現できる子が私の好きな人にそう報告していた。


いつかはこうなるとは思っており、私の好きな人の反応をうかがう。

多分心中は穏やかではないだろうけれど、そんなことは一切感じさせずにスラスラとお祝いの言葉を発している。


「え!!よかったじゃんおめでとう!!」


「うん、ありがとう・・・。」


えへへと笑うその子の笑顔を見ていると私まで胸が締め付けられてくる。


「じゃぁ、彼が待っているからもう行くね。」


またね、と私たちに手を振る。


「・・・この後付き合って。」


顔は見えなかったが声は震えており、こぶしが握られていた。

まぁ、そうだよなと同情する。


「うん、いいよ。」


用事が終わり、2人で個室のある居酒屋に入り、お酒の注文以外は無言だった。

お酒を持ってきた店員がお待たせしました~

 とこちらの暗く重い雰囲気に似合わない声を響かせる。


店員が個室を後にすると、好きな人が一気にお酒を飲みほした。


「わかってたけどさぁ・・・。」


そして、泣き言が始まる。


ノンケだと知っていた。

叶わないと知っていた。

でも好きになったしまった等々よくある失恋の文句。


でもさ、私だってあんたがすごい好きなんだよ。

それに一切気づかず、自分の理想の恋愛だけ追い求めてるあんたは私の気持ちにはきっと答えてくれないんだろうね。


だからこそ私はこうやってただ愚痴を聞いて、慰めて、決して届かない高みには手を伸ばさない。


・・・こんなにこの子に好かれるって羨ましいなぁ。


その子との愚痴会が終わり、自分の家に着く。

ドアを開けても誰も迎えに来ない。

そんな不愛想な玄関に靴を脱ぎ捨て、

 狭い1部屋に不釣り合いに大きなベッドに身を任せる。


置時計の針の音が存在感を放つ。


そしていつもの思考が開始する。


告白してみる?

この関係を壊してまで?

だったら仲のいいままそばにいた方が幸せでは?

でもそしたらいずれか誰かに取られる?


終わらない思考の渦に飲み込まれ無為に時間が過ぎる。


はぁと1つため息をついて重い体を起こし、お風呂と軽食を済ませる。

明日もあの子に会える。

それだけで十分じゃん。

そう無理やり言い聞かせて瞼を閉じる。


そんな日が2年ほど続いたが、段々と好きな人との会話が減ってしまった。

後輩もでき、指導など責任のあることも増え、互いにより多忙になってしまったからだ。


そんなある日、後輩から相談を受けることになった。


「先輩・・・実は・・・あの人と付き合うことになりました!!」


全ての思考がフリーズし、音も色も消えた感覚に陥る。

私の好きな人が?

この子と?


やっぱり動ける人は強いんだなぁ・・・。

心がぎゅうぎゅうと縮んでいくようだ・・・。


「何回も振られたんですけど。」


タハーと愛想よく笑うその子を見て確信を得た。


やっぱり私みたいな人は誰かと一緒にいるべきではないのだと。

好きな人がそれで幸せになれるならそれに越したことはない。

どうか、幸せになってね。


そんな祝福な思いとは別に口にしょっぱい水が入り込む。

涙が伝っていた。

無意識に。


「ちょ先輩!?」


「あ、うん、ごめんね。もう帰るね。これで払って。」


無造作に必要以上の現金を机に置き、逃げるように帰る。


「あぁ、こんな苦しい思いするなら好きになるんじゃなかった。」


狭い部屋にセリフがかすんでいく。

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