異世界転移したんだが、神界に取り残されたのでマイペースに生きようと思う
にしじまなな
第1章 森の怪物
1 女神シルテ様
瞼を開けてみるとそこは、記憶にはない綺麗な光景が広がっていた。
周りを見渡せば、終わりなくどこまでも遠くまで広がっているように視界が錯覚を覚えてしまうが、白一色の為かそういう風に認識してしまっているのかも知れないし、本当に終わりのない場所なのかも知れない。
そんなことを考えていると、少し遠くに居る一人の少女とガッツリ目が合う。
その少女を何かで表すなら、俺のようなモブでは一生届くことの出来ない高嶺の花になろうとしている途中経過と言ったところだろうか。うん、凄い失礼なことを言っている気がする。
「あれ? なんで一人だけ残ってるんだろう......? ちゃんと人数分送れてるはずなんだけどな」
少女は「うーん」と考えているようだ。
それほど距離がなかったのだろうか、少女はすぐに俺との距離を詰めて来て目の前に立った。なんか良い匂いがするな。
少女は黙り込み、俺も黙り込んでいる為、少しの間この場に静寂が訪れる。
「あぁー、そういうこと」
一人で納得しちゃったよ、この人。納得したのなら俺にもそれを教えて欲しいんですけど。ここがどこか分からないし、この子も誰だよ。迷子かな?
ひとまずこういう時の対処方法と言えば、
「そのー、あなたは誰なんですか? それにここはどこです?」
絶対知ってそうな少女に聞くことだ。もしも迷子だった場合は俺の疑問を解決することが出来ないので、他の人がやって来るまでの間この辺りを散歩してみよう。
そもそも少女と言っているが、ぱっと見は少し俺よりも背丈が低く、その下には特に立派な二つのものはなかった。きっと世の中の男はこういうロリとかが好きなんだろう。合法ロリとかかな、合法なのか知らないけど。......あ、すみません......。
変なことを考えてしまったのを勘づかれたのか、少女に少しだけ睨まれている気がする。多分。気のせいにしておこう。
それにしてもこの子の距離感半端じゃないくらい近いな。それのせいだろうと思うが、少し甘い匂いが俺の鼻腔をくすぐって来る。嫌な匂いじゃないので、気にならない。
このまま動物みたいにクンクンさせてしまったら最後、俺は変態扱いされて牢屋に入ってしまうのが確定しそうだ。そもそも動物ならまだしも、大丈夫だろうが。いや、人間も動物だから大丈夫なのかな?
というか俺は変態じゃなくて、どこにでも居そうな普通のモブ高校生だ。そうだよ。
「自己紹介しないとね。私は、女神シルテ。ここは神界で、他世界から他世界の通り道ってところです。って言っても分からないから、女神シルテ様ってことだけ覚えておいてね」
少女ことシルテ様はどこか楽しそうに自己紹介をして、右手を差し出してくる。
「こちらこそ、初めまして。俺は、
俺もまた自己紹介をして、シルテ様の手を握り返した。
「礼儀正しい子だなぁー! 私、ナギルくんの事好きになりそうかも!」
その言葉に心臓が一瞬ドキッとしてしまったが、すぐに自分を取り戻す。
いや、だって、初対面の人に『好きになりそうかも』とか普通言うか? 否、普通は言わないだろ。
そんな焦りを見せてしまった俺はシルテ様に何を考えていたのか読まれてしまったのだろう。
「なーに変なこと考えてるの? 私はそんな尻軽女神じゃないからね」
「え? そうですよねー」
好きになってもらえることに関してはどうだっていいのだが、俺は何故か悲しそうに返事をしてしまった。
なんで悲しそうになったかは自分でも分からない。分からないが、そもそも俺が誰かに好かれるなんてあり得ない話なので気にすることを辞めた。
それと一つ分かった事がある。シルテ様のテンションはどうも苦手かもしれないということ。
元々マイペース気味なのは自分でも分かっていたから、シルテ様みたいなテンションの人とはあまり関わりたくない。もっとこう、温厚と言うか、何だろう常に眠る生活が俺には合ってそうだ。なんの話をしてるんだ。
それはそうと、
「さっき神界とか、他世界から他世界ってことは異世界召喚とかそんな感じでしょうけど、もしかして死んだってことなんですかね?」
「そういう反応しちゃうのか。もっと驚いたりびっくりしたりして、我を忘れちゃうくらいの反応の方がしっくりくるんだけどな」
我を忘れるくらいって、そこまでくると流石にやばい人にしか見えないだろ。もしかすると、クラスメイト達はそういう反応をしていたのかも知らないと思ってしまう。
そしてシルテ様は俺の疑問に答えてくれる。
神界ーー神様が住んでおり、他世界との連絡通路のようなもの。
時間経過が存在しないが、朝昼夜はある。
寝る時は寝るし、ご飯も食べる。仕事もある。
「なるほど」
俺は今、神様が住まう世界に立ち止まっているということだ。人間生きてりゃ色々なことがあると天国にいる祖父が会う度に言ってたが、まさに今祖父の言ってた通りのことが起こっている。
今年で十七歳。この世の中は広く、俺は地球とおさらばしました。
「それで異世界召喚ってのはなんですか? 魔王を倒すとかそういう?」
ラノベで読んだ話だと、異世界に勇者として召喚されて〜的な話でストーリーが展開されて、魔王を無事に倒せたら元の世界に帰れる、幸せに異世界で暮らすなど物語が存在するが、今この状況はそのまんまである。
しばらく黙っていると、
「自分から聞いてて反応薄くないかな? もっとこう、他の人達は凄く驚いてたからね!」
「いや、現実味が無くてですね。生きてたら色々あるって言いますけど、流石にぶっ飛びすぎてるっていうか……」
弁明しようとしている俺の肩をシルテ様は掴み、せっかく説明したのにと言いながら揺らしてくる。視界が揺らいでいる。
しかしそんなにやったらさっきみたいに、
「「痛っ」」
言わんこっちゃない。俺とシルテ様は額をぶつけた。地味に痛いのが……ヒリヒリしてきた。
「少しだけ落ち着きましょうか」
ふと思ったけど、女神様って胸が大きなイメージが勝手にある(有名なイラストレーターのイラストとか画家の絵とか)。けどシルテ様の胸はそれほど大きいわけじゃないと思う。
さっきの距離感バグで肩を揺らされている時、チラッと見えたけど……あ、すみません。この話はやめよう。
「言っておくけど、神は心を読めるから。失礼なこと考えてたら天罰が下るかもよ?」
シルテ様におど……怒られてしまった。
女神様のシルテ様が言うとやっぱり本当に起きそうな気がするのでこれ以上はやめておこうと思う。天罰だけは嫌だ。
それに心を読めるって、流石神様女神様って言ったところ。現実味が無いな。
気に障ったのか、シルテ様は若干俺から離れ距離を取る。胸胸うるさくてすみませんでした。
「すみません、シルテ様」
そんな会話をしながら、今の状況を改めて自分の中で整理してみることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます