第5話

 一年が過ぎ、また花火の季節になった。受験生だろうと、この日だけは欠かせない。

「今年も二人で行けばいいだろう」

 尊志は気を利かせて別の友達と約束しようとしていたのに、他ならぬ陽香が尊志を誘った。

「駄目だよ。花火大会は三人で行くって決まりじゃん」

「そんなの何時、誰が、何処で決めたんだ」

「それは……あれ?」

 尊志は観念して、一緒に行くことにした。

 例年通り、屋台を冷やかしてまわる。人が多すぎて三人並んで歩くのは難しく、必然的に陽香と雅貴の後ろを尊志がついていくような形になってしまった。

「なーんか、違うんだよなぁ」

 前を行く二人の背中を見ながらぼやく。

 二人の距離感は友達の域を出ていないように見えた。

「あら、去年のカップルさん」

 りんご飴の屋台から、おばさんが声をかけた。

「覚えててくれたんですか!」

 陽香が駆け寄る。

「あなたたちは特別にね。とってもお似合いだったから」

 耳まで赤くなる。そんな陽香に未だに鼓動が早くなる尊志は、想いを追い払うように頭を振った。

「実はあの時は別にカップルじゃなくて友達だったんですけど」

「あら、そうなの。でも、友達だったってことは、今は恋人なんでしょ」

 口をぱくぱくさせて何か言おうとしているが、声にならない。

「可愛い彼女さんね」

 雅貴は頭を掻きながら笑顔で頷いた。真っ赤になって俯いている陽香には当然見えていない。

「りんご飴三つ、ください。全部小さいので」

「三つなの?」

「はい。今年はもう一人いるんで」

 雅貴は手を伸ばして、ぐいっと尊志を引っ張った。

「あらあら。彼女の取り合い?」

「違いますッ!」

 即座に否定した尊志に、雅貴は心底意外そうな顔をする。

「何だよ」

「俺はいつ尊志に取られるかひやひやしてんだけど」

「……知らん」

 雅貴に奢られたりんご飴は、とても甘い味がした。


「やっぱここが落ちつくな」

「向こうは人が多すぎるもんね」

 秘密の場所は、不思議と誰もいなかった。

「そーいや皆さ、進路どうするんだ」

 尊志が何気なく問いかけた。

「私は西宮大学に行くつもり」

「うわ、そんな難関狙ってたんだ……」

 雅貴がショックを受けている。

「濱野は?」

「鹿応の医学部」

「お前ら、そろいも揃って難関て」

 やさぐれている雅貴に、視線を向ける。

「あぁ俺?……俺は、大学行かねーよ」

「「はぁ!?」」

 大学には行くだろうと思い込んでいた陽香と尊志は、素っ頓狂な声を上げた。

「俺さ、花火職人になりたいんだよね」

「花火職人?」

「そ。花火見てる人って、超綺麗な顔するじゃん。そういう表情つくれるのって、凄いと思うから」

 夢を語る雅貴は、いつもより格好良くて。

「私、内海のこと応援する」

「おう。サンキュ」

 ドオン。

「花火だ」

 一瞬で色づいた夏の空と、見ている人の心。陽香の顔が輝いて見えるのは、単に光が当たっているからではない。

 尊志はその瞬間を目の当たりにして、雅貴の気持ちを理解した。

「頑張れよ」

 そう言って背中を軽く叩くと、雅貴は嬉しそうに笑った。

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