第78話 アリシアの付き合ってくれるかな?

「クロウ君ちょっと付き合ってくれるかな?」



 聖女巡礼の祝い祭りも終わり、いよいよ明日アリシア達が旅立つ、そんな前日の朝、俺はアリシアに呼び止められた。



「ええっと…………こと、いいよ」

「クロウ君いま断ろうとしたよね? ね?」

「あまりにもアリシアの顔が真剣で、嫌な予感がしたから……とは思ってないです」

「思ってるよね!? そういう所だよクロウ君!」



 そういう所ってどういう所、というか何で俺は怒られているんだ。

 アリシアは先に玄関で待っていて、というので待っていると、軽装姿のアリシアが戻って来た。

 白いワンピースでアリシアの少し長めの青髪が清潔さを増す。



「聖女姿じゃない?」

「聖女の用事じゃないし」




 聖女であるアリシアは公務の時は聖女の仮面をかぶっている。

 個人情報を守るような形で、聖王バルチダンの粋な計らいだ。

 粋な計らいであるが、とっても胡散臭い。


 俺達がいない1年の間に、そんな胡散臭い聖女が誕生していたかと思うと、アリシアはその仮面をかぶり活躍しまくった。


 もちろん魔法を使い過ぎないように、治療の経過も含め師匠達の監視付き。

 でドンドン一般人の傷を治していく、さらに師匠からアリシアに、アリシアからヒーラーに魔法も教えその人気は高まったいた。


 もしかしたらだけどクウガを援護したいわけじゃないが、アリシアが忙しくてシスターフラムの罠にかかったんじゃないかなぁ。

 でも逃げるのはだめだな。

 ハーレム主人公のくせに本当もったいない。



「じゃ、先生! 行ってきます」



 アリシアは師匠に挨拶すると、師匠もアリシアに返事をしている。

 なるほど? 師匠も知っての事か。



「ん。所で聖女様、どこに連れて行ってくれるんですか?」

「着いてからのお楽しみ、さぁ馬車乗って」



 馬車に乗せられてカーテンを閉められる。

 せまい密室の中アリシアと一緒にゆらゆらと。

 何を話せばいいのか、あれか? 『この度はクウガが逃げてご愁傷様でした』いや、違うな。

 『クウガとフレイの子供。アクアマリン、可愛い名前ですね』うーん。これも違う。

 先ほどからアリシアが無言なので俺も変な緊張をしてくる。



「ク、クロウ君!」

「な、なに!?」

「なんで緊張してるのかな!?」

「…………アリシアが緊張してるから……です」

「ごーめーんーなーさーいー」



 アリシアがカーテンと窓を開ける。

 馬車の中に外の風と音が入って来た。



「いい風」

「そう?」

「そういう所だよクロウ君。女の子がいい風って言ったらいい風なの」

「そ、そう。いい風だね」



 だから何で俺は怒られて。

 馬車に揺られて少し、馬車の速度がゆっくりになり止まる。

 俺は外の景色を見ると、とても嫌な予感がする。

 だってここ。



「とうちゃーく。ようこそクロウ君。アリシア=スニーツの実家へ」

「へ、へぇ」



 アリシアに誘われるまま馬車から降りる、どれもこれも見覚えがあり過ぎる、アリシアの実家と言えば一週間ほど前に俺が壊滅させた所だ。

 こっちの時間では1年前になるのか。

 壊れたはずの門や扉はちゃんと治っている。


 これは、俺が怒られるパターンか? 『人の実家を壊すとか人間のする事じゃないよ? クロウ君、聖女の権限で懲役……ううん死刑だからね』……ぬおおおおおおお!!


 俺はアリシアの肩を掴んだ!



「アリシア! 俺は」

「ひゃ、はい!? ななななな真面目なクロウ君……なに、なにかな?」

「せめて懲役で頼む」

「……………………百年ぐらいはいったほうがいいかも」

「懲役ややめてええええ!」



 俺が土下座をしてアリシアに頼み込むと、頭の上から「冗談だよ?」って声が聞こえた。

 俺は立たされてそのまま屋敷に連れていかれる。



「結局クロウ君が何に謝っていたかわからないけど、会って欲しい人がいるの」

「だれだろ……」



 俺は周りを見ながらアリシアに手を引っ張られる。

 体感一週間前と違って俺の知ってる顔はいないし、俺を見て逃げる人間もいない。

 前よりも使用人の数は減ったように見えるが平和そうな屋敷だ。


 一番奥の部屋。

 懐かしさも何もない部屋をアリシアはノックする。

 返事を待たずにアリシアは扉を開けた。


 部屋の中には爺さんが座っていて、穏やかな表情のままアリシアに向き直る。



「お久しぶりです。ウィリアムお義父様おとうさま

「ほう、良く来たのうアリシアよ」



 どこにでもある、普通の親子の会話。

 しかし、俺が知ってる『マナ・ワールド』での原作のセリフだ。

 どこにでもあるはずなのに俺は顔が引きつる。あれほど強欲の固まりのウィリアム爺さんが、微笑みなんて何を企んでいるんだ。



「そちらは?」

「以前お伝えしたです」

「それはそれは、聖女アリシア……いやアリシアの事をよろしく頼みます」

「ウィリアム義父様、友人は友人の人生がありますので」

「そう……そうか。そうだな。ご友人よ何もない屋敷であるがゆっくりして行ってくれ」



 軽い雑談の後、ウィリアム爺さん(善)に見送られて部屋を出た。

 廊下を歩きながらアリシアが俺に話しかけて来た。



「お義父様は1年前に突然記憶を無くしたの」

「1年前?」

「うん、大きな事は思い出したらしんだけど、発見された時はとてもひどくて……記憶はほとんど戻ったらしいけど全部じゃないみたい、後は性格が変わって、1年前に何があったんだろうね」

「へぇ……まったくわからん。突然善行に目覚めたとか」

「そうかもね、屋敷にいた人に全財産配ったみたいだし……」



 アリシアが黙って俺を見る。

 俺は自然に目をそらした。



「クロウ君」

「何?」



 アリシアは廊下で立ち止まり、俺の首に手を回し抱きついて来た。



「だから、クロウ君もう大丈夫。ありがとうございました」



 直ぐにアリシアは俺から離れる。



「ア、アリシア」

「これ以上はクロウ君も困るだろうし、お終い。クロウ君! 聖都を案内してあげる、1年の間に美味しいお店沢山見つけたの、先生と行ってね」

「ほう、じゃ教えて貰おうかな」



――

――――



 聖都タルタン。

 教会近くのカフェテラスでオムライスを食べる。

 この世界にオムライスがあるの? と言われるとあるので俺は何も言うまい。

 アリシアが見つけたお店で、なんと米が食える……。

 それはいいけどオムライスはあるのに白米単品がないと言う不思議な店だ。



 ウエイトレスが二つテーブルに持って来てくれた。

 俺はその一つにケチャップでハートを書いて前の席にいる師匠へと渡す。

 師匠はハートの真ん中をケチャップでジグザグに線をたした。

 まるでハートが割れたような模様だ。

 それを俺につきかえして、もう一つのオムライスを食べだした。


 俺は泣きながらそれを食べる。

 実際は泣いてないけどさ、心が泣いてるの。



「にしても、静かになりましたね」

「アリシア達も行ったからなのじゃ」



 師匠の言う通りアリシア達の送別会も昨夜終わっており、先ほど別れた。


 俺達も一緒の見送ったのだ。

 アンジェリカ達は俺と師匠に屋敷に残ってよ。と懇願したが、さすがにね。


 街に降りて久々の外食。

 それも師匠と2人っきりだ。



「で。師匠はこれからどうするんですか?」

「ワラワか? 家に戻って平穏に暮らすつもりじゃ……ドアホウこそどうするんじゃ?」

「普通ついて来ますけど」

「そう言うと思ってげんなりするのじゃ」



 師匠はそういっているが、俺の墓を建てる時に結構な支払いをしてくれた。とノラがこっそり教えてくれた。

 愛されてるのか面白がっているのか分からない、因みに師匠が出した墓は代金は先払いで返ってこなかった。



「平穏が一番ですよね」

「ドアホウが言うと嫌味にしかきこえんのじゃ」



 俺も師匠もそんなこんなで昼食を終えた。

 すでに代金は支払ってあるので食器を返してそのまま立ち去る。

 街の出入り口まで歩き続ける。


 聖女の巡礼に行く祭りも終わって街は比較的静かだ。

 アリシア達は今頃は砂漠の街スータン行きの馬車だろう。砂漠の街スータンでクウガの事を占ってもらうらしい。



「で、どうやってフェーン山脈まで帰るんです? 徒歩で言えば3年ぐらいでしたっけ?」

「徒歩ならばなゴールダンの共同墓地。そこがまだ生きていれば」

「ああ、この街からでしたら3つ先ぐらいですかね」



 …………。

 ………………普通なら問題ないはずだ。



「にしても、まだ間に合うぞ」



 お、師匠の本気の質問だ。



「何がです?」

「ワラワと来ることじゃ……いうてワラワより若い女など沢山いるじゃろ。アンジェリカなんてどうじゃ? 一緒に時を超えたんじゃろ。そのまま一線も超えたらどうじゃ?」

「それがですね。アンジェリカ初回こそ俺に子種を迫ってきましたけど……友達になったら要らないと」

「ふむ。ノラはどうじゃ? 今なら呼び戻せるかもなのじゃ」



 ノラか。

 本当に男の子っぽさが消えて少女になった。

 髪なんて師匠見たく伸ばして、体系がスレンダーなので間違う事はないけど。



「ノラこそ俺よりいい人のほうがいいでしょ」

「そじゃな、あれはドアホウには勿体無い」



 師匠が即答した。

 自分で振って来たくせに酷い。



「俺ぐらいになると、行き遅れの魔女が適任かと」

「…………はぁ別にワラワは伴侶を求めるわけじゃ」

「知ってますよ。だからまず弟子から」

「ワラワは別に弟子を求めてるわけじゃ」



 話が平行線になってくる。

 師匠の『クロウベルとはここでお別れしよ』オーラが見える感じだ。


 ここは師匠を褒めて褒めて褒めて話題を変えなくては。



「そういえば、師匠ってなんであのウロコを斬れたんです? 師匠が天才だらですか?」

「ん。天才……ドアホウも気になるのじゃ?」

「そりゃまぁ。俺が斬ったら乾燥昆布でしたし」

「魔力の属性。あれほど大きい奴であれば中の魔力も強いからの、似た属性を持つ力で斬ればあの通りじゃ」



 お、師匠が褒めたたえよ。の顔だ。

 


「素直に凄い。師匠って雷属性でしたよね」

「………………ワラワは一度も雷属性しか使えない。とは言ったことはない」

「え、でも俺に攻撃する時は雷系……」

「前にもいうたかもしれんが魔法使いは対策されたら終わりじゃしの、人前で使う魔法は気を付けているのじゃ」



 そんな理由で、さすがの師匠である。

 歩きながらの会話なので人が多くなると自然と内密な話はしなくなる。



「と、言うわけで見えてきましたね馬車屋」

「そうじゃのう……じゃ行くかの」



 2人分の料金を支払い旅馬車へと乗り込んだ。

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