第71話 クロウベルにしか出来ない事

 疲れていたのかクウガに起こされるまで寝ていたらしい。

 目が覚めて体を見ても外見の変化は特になし、ゆっくりと柔軟運動をして頭をはっきりさせていく。



「よし、もう大丈夫だクウガは?」

「僕も朝の柔軟体操は終わった所です…………今日はどうしましょうか?」

「俺に聞かれても。アリシアの試験には竜のウロコ、後は――」

「はい。後は古代ミレニアム金貨と血がいるらしいですんけど……金貨、金貨……」

「ああ、それならあるよ? 言ってなかったっけ?」

「はい?」



 伝えたような伝えなかったような。

 聖女にジョブチェンジ出来るアイテム、砂漠の街でスータンでランシーヌ……じゃないな、フランシーヌから貰った奴だ。



「き、金貨何千枚の奴ですよ……1年はここにいてクエストをするつもりで」



 長い。

 いや、正統に2000枚ぐらい貯めるとなると1年でも早いほうで4年は欲しい。



「もらえません!」

「別にクウガにやるつもりはない」

「え。あっす、すみません」

「アリシアにだし、断っても渡すけどな。まぁ多分師匠がそのへんをアリシアに伝えてると思うよ、それにその金貨だって元々俺の持ち物じゃないし」



 俺の言葉にクウガは納得したのかしらないがとりあえず頷いた。

 昨日も見たメイドが部屋に朝食を運んでくる、パンとスープ、後は美味しくない携帯食料。


 これだけ魔法が発達してるのにこの世界缶詰がないのよね。

 俺の知識があれば作れそうだけど……世界のバランスが壊れそうなので何もしない。


 マジックボックスという収納アイテムがある世界だし多少の不便さは楽しまないとな。


 不味い朝食を食べた後に客間へと降りる。

 すでにアリシアと師匠が先に来ていた。



「師匠、おはようございますーアリシアも」

「ん」

「おはようクロウ君クウガ君。見てみて、少し濃くなった!」



 アリシアはお腹をペロンと俺たちに見せる、うんやっぱり『陰紋』だ、彫ったやつの顔がみたい……とおもったが昨日見たのでちょっと納得する。

 もう少し下にめくったら色々危ない。



「それは置いておいて……師匠。古代金貨をアリシアに」

「昨夜のうちに渡しておるのじゃ」

「メルさん。あの良いんでしょうか。絶対に払います!」



 クウガが師匠に食い気味で話すが師匠も手を振る。



「貰い物なのじゃ。それに小僧にやるわけじゃないアリシアに譲るんじゃ」

「そ、そうですか」

「なっ師匠もそう言うって」



 やーい。怒られているの。



「じゃぁ後はドラゴンさんだけだね。ウロコがいるんだよね?」

「そうだな……」



 『マナ・ワールド』内での『竜のうろこ』はドラゴン属性の敵のレアドロップである。

 売れば1枚200ゴールドで、ドロップ率は0.2パーセント。

 フリーシナリオ的な所はあるが、町の人に話を聞いて進めた場合。砂漠の街スータンから、温泉街イフに行くので、偶然に持ってる事があるアイテムだ。


 俺が遊んだ時はコントローラーとマウスを握りしめ3日も戦えば出たアイテムではあるが、問題はゲームと同じなのか。



「…………ええっと竜さんの場所知らない、クロウ君どこかな?」

「なぜ俺に」

「なんとなく知っていると思って」



 いや知ってるけどさ。



「竜のうろこ。アイテムであれば砂漠の街スータンで出る火炎リザード。アレも一応竜族の末端で1万匹も狩ればレア素材だし出ると思うよ」

「うーん、生態系が崩れそうだね。そもそも1万引きもいるかなぁ……他には?」



 他か。

 


「師匠、蜃気楼の古城って知ってます?」

「………………まぁ知ってるのじゃ」

「一応聞きますけど、師匠の城とか建築中に飽きて捨てたとか、作ったはいいけど完成品には興味がないタイプで隠した。とか、師匠の美的センス壊滅だったゆえに放置したとかないですよね?」

「んなわけないのじゃ! ワラワを――」

「いやだって家すら忘れるし」



 俺が言うと師匠は黙り足を組みなおす。

 お、怒らせてしまった。



「師匠大丈夫ですよー俺はちょっとぐらい物忘れする師匠好きですよー」

「ドアホウ! 本気で怒るぞ?」



 本気でキレだしたので俺は黙る。



「家はまぁ……そもそも何度も引っ越しすると前の家なんて忘れてな……それは認めるのじゃ。問題は蜃気楼の古城じゃったな……忘れられた古龍がいるはずじゃが、もしかして知り合いなのじゃ?」

「全然」



 高難易度クエスト。

 消えた聖騎士。その中で行ける事が出来る蜃気楼の古城。

 中には狂った竜がいて逃げ出すのだ。

 途中で宝箱はあって『竜のウロコ』が拾える。


 と、攻略ページ書いてあった。



「ウロコの1枚ぐらい落ちてると、別に戦うわけじゃないし」

「なるほどなのじゃ……」

「では、僕が行きます!」



 クウガが立ちあがる。



「どうやって?」

「え、クロウベルさん教えてくれるんですよね?」

「いや、知らないけど……」



 俺が知っているのはあくまでクエストと中にある宝箱の中身だけであって生き方まではしらない。

 

 ってかね。

 このゲーム、特殊な場所行く時はなんとクエストをクリックするだけでいけるのだ。


 無駄な移動時間をかけさせない親切設計であったが、それがあだになる。

 どうやっていってどうやって帰ってるんだ? と。



「話は聞かせてもらったよ」



 アンジェリカが客間に入ってくる、私服姿も中々様になっているようだ。



「お、おはようございます!」

「ああ、おはようクウガ君」



 声が上ずったクウガが挨拶する。まだ聖騎士隊副隊長って所で緊張してるのか?



「クウガ、あまり緊張してるとアンジェリカに食われるぞ」

「なっ!?」



 クウガが凄い驚く。

 そりゃそうだろう、初対面の俺に子作りをせがむ奴だぞ。

 気をつけろって事だ。

 まぁクウガはアンジェリカよりもシスターフレイとのイベントがあるんだけど。



「へぇ……クロウベル君はそういう事いうんだね……まぁいいさ。その話をしに来たわけじゃない。霧の古城だったね」

「いや、蜃気楼の古城」

「どっちも同じと思うよ。聖都タルタンに近い湖畔に幻の城がみえたんだ。現在聖騎士団はその調査を依頼されている。私達の間では霧の古城と呼んでいるね。どこで情報が漏れたのか私はそのへんか気になる」



 アンジェリカは俺の首に手を回す。

 背中に柔らかい物が、胸を当ててくる。

 うっかりじゃなくて、これわざとだろ、ぐいぐいくるし。



「…………反応なしかぁ」

「なんのだよ」

「まぁまぁ。情報漏れはこの際水に流すとして、じゃっクロウベル君一緒にいこうか、聖騎士隊は君を歓迎するよ」

「え?」



 俺だけ行くのこれ?

 師匠から場所を聞いて皆で行って皆で帰ってくる予定なんだけど。



「師匠達と行くので……」

「ワラワも存在は知っておる。と、言う話だけで場所はしらないのじゃ。丁度ええ聖騎士団と行ってこい、割と危険な場所で聖騎士隊と行くなら安心じゃろ」

「先生! 私が治ってからいくのは……私の事なのに迷惑はかけれないよ」



 さすがアリシア、責任感が強い。

 それに控え師匠と言ったら……俺が師匠を見ると師匠は俺を見ては目を細める。



「わらわが場所を知らないと言ったのはじゃな蜃気楼の古城は一定期間場所を変えるのじゃ。アリシアが治ってから行くとなると場所探しからやらないといけないのじゃ。なにドアホウが行くって言うんじゃ任せた方が早いじゃろ」



 あ、師匠は楽をしたがっている、面倒な事があると動きたくない病だ。

 じゃぁクウガだ。

 俺はクウガを見て、目と目が合う。



「僕が代わりに行きます!」



 やっぱりクウガは頼りになる。



「クウガ君ではだめね。この先強くなると思うけど現状弱い者、騎士団と一緒に行くっても一般人を連れて行く事は出来ないの」



 やっぱりクウガは頼りにならない。

 アンジェリカが言い切るとクウガのテンションがものすごい落ちた。



「僕が一般人……」

「夜の方はすごう――」



 アンジェリカが何かを言いかけてクウガが大きく動き回る。



「げっほげほげほげほ。クロウベルさん! 申し訳ないですけど、少し体調が悪いです!」



 めちゃくちゃ元気そうなクウガが力強く宣言した。

 元気そうだけど、本人が言うんだし咳も出てるしなぁ。

 俺はアリシアをみた、アリシアの表情が何か考えているような顔になっていた。


「アリシア魔法かけれる?」

「え、私? あっごめんね。少し考え事してたみたい。かけてあげたいけどまだ数日は魔法使わない方がいいって……ごめんねクウガ君」

「だ、大丈夫。僕のほうこそ……その、ごめん」



 クウガがアリシアに謝っているのを見て俺もアンジェリカに意見を言う。



「それでいくと俺も一般人なんだけど」



 俺が言うと何故か場が静かになった。

 元悪役令息れいそくで死ぬ予定なのを先に知っていたから努力して回避した、ちょっとゲーム内容を知って師匠が好きななだけの一般人だ。



「クロウ君はちょっと違うような」

「まぁそうじゃの」

「僕はクロウベルさんは選ばれた人間と思います!」

「選ばれてるのはクウガだからね……まぁウロコ取ってくるだけだし、いいか」

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