第59話 開廷!死刑!閉廷! ごっご

「はーい! これからクロウ君への質問を開始しまーす。開廷! だっけ、うんあってるよね」



 そう言うのはアリシアで、言葉とは裏腹に声色も優しい声。

 顔なんて笑みさえ浮かんでいる。

 しかし浮かんでいるが背後の見えないオーラは黒色だ。


 宿屋の一室。

 俺は部屋の中央で椅子に縛られており、目の前には木べらを手に持った裁判長のアリシアが立っている。


 左側には師匠とノラ。

 右側にはクウガ。

 俺の背後にはミーティア、クィルがいる。



「よくわからないからクロウ君は死刑で、ええっと閉廷!」

もふもふいぎあり!!」



 なにも弁護しないまま俺の死刑が確定した。

 いやいやまってよアリシアさん!



「うーん。聞こえないし……縛られていたら話せないよね。ノラさん解いてあげてくれるかな?」

「え。うん」



 椅子に縛られて口までも縛られている俺、その口かせをノラが取ってくれる。



「ふう……異議あり!」

「却下しまーす!」



 アリシア裁判長の無慈悲な声。

 この裁判を見ていたクウガが恐る恐る手をあげた。



「ええっとアリシア。この劇みたいの、まだ続けるの?」

「…………やめよっか。クロウ君動いていいよ」

「うい」



 俺は小さく頷くと、ノラがロープを切ってくれた。手足を動かし体を伸ばす。


 先ほどまでのノリノリの演技が嘘のように淡々と片付けをはじめた。


 もう少し付き合ってくれてもいいだろうにクウガも真面目というか……なぜこんなをしていたかというと、少しさかのぼる。


 混乱するクウガ。

 俺が秘密を知っている事に驚くアリシア。

 知ってた秘密をついポロっと言ってしまった俺。

 呆れ顔の師匠とクロー兄さんらしいね。と言う顔のノラ。

 残った2人は疲れた&お腹減ったと言い始める。



 まぁ混乱を収めるためにクロウ君の裁判だね。ってアリシアの一言から始まった寸劇。



「じゃぁクロウ君説明してくれる?」



 にっこり笑顔のアリシアのお願いだ。断れるはずもない。

 ってかなんて答えるのがいいんだろうか。



「アリシアよ。ドアホウはこれでも貴族なのじゃ。こんなド変態、ドアホウ、ドエロで頭に脳みそが入っているかわからぬし、カボチャの方が納得いく事があるが、これでも貴族なのじゃ」



 ドアホウとドエロと色々言われているがこんなに名前を言ってくれて少し嬉しい。



「いやぁ……照れますね」

「褒めてないからなのじゃ! ごほん。ワラワとアリシアが以前世話になったじゃろ。その時にある程度調べてあるんじゃろ、身分不明の客人を貴族の家で保護するわけにはいかないからなのじゃ」



 ああ。そうか!

 その手があったのか、でも俺の実家スタン家は身分不明でも絶対に保護する。


 俺の父もそうであったが兄のスゴウベルでさえ身分不明の女の子を連れ込んでいたりしたし、そのせいで泥棒が入った事さえもある。

 そのなんだ……スタン家は女性に甘い……そのせいもあって俺が師匠にラブアタックをかけてもスタン家の呪いか。と流されるぐらいだし。



「そう! 実は5年前に……メイド長に頼んで調べてもらった」

「本当……? クロウ君は何でも知ってるけどいざ自身の秘密を知られてるとは思ってなかった、うん。先生が言うならそうなのかも」

「ソオソウソウダヨ」

「でもクロー兄さん人知を超えた事を……」

「ノ。ノラ! 今は黙ってようね」



 俺はノラの背後に回り肩をもむ。

 ノラはくすぐったいのか慌てて俺から離れていった。



「まぁアリシア……その。偉い人だったんだな」

「うわ。もしかしてアリ姉ちゃんって呼んだらダメ!? ええっと何て呼べば」

「普段通りでいいよ……もう。怒るよ」



 アリシアのほほがふくれる。

 師匠がパンパンと手を叩き音を鳴らして注目を浴びた。



「まっスニーツ家がどう動こうかやる事はかわらんのじゃ」

「確かに。聖女になるんだろ?」

「それなんですがクロウベルさん質問いいでしょうか?」

「俺に!? なに? あっ」



 クウガが俺に質問をして来た、であれば答えるべきだろう。



「俺の好きな食べ物は米で好きな女性は――」

「そうじゃなくて! アリシアが聖女の血が混ざってるとか……であれば試験を終えなくても聖女なのではないでしょうか?」

「ん?」



 確かに聖女の血があれば聖女だろうし。でも『マナ・ワールド』のゲームでは試練を終えてジョブチェンジで聖女になったし、そもそもジョブチェンジって何? って話になるし。


 じゃぁ一般人でもその試練のアイテム持っていれば聖女になれるのか? って事にもなる。


 でもこの世界を生きていてそんな話は聞いた事ないし、聖女の名前を語る悪人がいるってのも聞いた事はある。




「…………………………師匠パス」

「こやつは……公認と非公認の違いじゃな。聖女とはあくまで聖教ソニアから出なくてはならない、公認じゃないのに聖女を名乗っていても偽物だ! と広められ何をされるかわからんからなのじゃ」

「ああ。ノーベル賞取った人が2人いて中卒と大卒じゃ中卒の評判さがりますもんね」



 全員が無言になる。

 何てわかりやすい説明何だろう。



「あの、クロー兄さん意味がわかりません」

「ミーティアちゃんもー」

「くろうベル。通じタ」



 なんでクィルは通じるんだよ! ってのは置いておいて例えが失敗した。

 そりゃここに学園はあっても公立学校なんてなかったもんな……。



「例えが悪かったごめんって、ソニア教から聖女が出たら不味いって事だよ。例えば殺されるとか」

「ひっ! アリ姉ちゃん殺されちゃうの!?」

「うん。そうだよ」



 すごくあっさりしたアリシアの声が返ってくる。



「アリシア! 僕が守る!」

「本当? ありがとうクウガ君。でも安心して死なないから」



 熱血気味のクウガに普通に返すアリシア。

 詳しい事やここでやる事は明日じゃな。と師匠が閉めの言葉を言ったので疑似裁判はお開きとなった。


 部屋割りは、俺と師匠とノラが同室。他のクウガ組が同室という夢のような部屋割り。


 俺達3人はあくまで別パーティー。

 あっちの部屋で毎晩ナニが起きてようが詮索するつもりは無いし、こっちの部屋で毎晩ナニをしても詮索はさせない。


 もっとも俺と師匠は同じ部屋で寝るだけで特に何もないけど。

 襲おうにも……ちらっとノラを見る。



「じゃボクは4ぐらい街を見てくるね」

「…………ノラ。いやノラさん?」

「クウ兄さんも毎晩大変だろうし、ボクのせいにされてもこまるから」

「ノラよ変な気の回しは……」



 師匠の言葉が最後まで言う前に扉が閉まった。

 俺と師匠が部屋に二人っきりの空間。



「な、何か暑いですね。脱ぎます?」

「脱ぐわけないじゃろ……まだ突然襲ってきた方が……いや襲われたいとかじゃなくてじゃな」



 3分ぐらい……体感では1時間ぐらい師匠と無言が続いたあと俺は思い切って窓を開け空気の入れ替えをした。

 ビクっとなる師匠に振り向き近くの椅子に座る。



「先ほどは助かりました。俺が知ってる事のカバーというか」

「ん? ああ……ドアホウがの知恵の話じゃな? なに昔いた占い師もそう言う奴でな。何でも知ってるくせに肝心な事は何もいわん奴じゃった」

「あー占い師マリンダですか?」

「そうじゃ。たく自分の死期ぐらい伝え解け」



 おそらく転生人、転移、なんらかの情報を持った占い師マリンダ。もしくはゲームマスター?

 俺も会って見たかったのはある。



「そもそもワラワとアリシアが旅をした理由、それは知ってるのじゃ?」

「全然」



 俺が即答すると師匠がうなだれた。



「ほんっと肝心な事を知らないのはドアホウなのじゃ」



 だって攻略ページに乗ってないもん。

 とは言えない。



「アリシアの本当の両親は既になくなっておる、聖女の力に目覚めたのはその時。村全体を回復する魔力を秘めた小さいアリシアは噂になった。まぁここまではよくある話じゃな、それを食い物にしようとするやつらが多くてな。ワラワは本当の両親の願いを受け一人前になるまで一緒にいたというわけじゃ」

「そう……なんですね」

「念には念を込めて聖都タルタンには偽名で入ったんじゃがのう」



 見破られていた奴だ。

 って事は結構前から監視されていたり?

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