液晶に飲まれる。
僕はいつものように窓枠に座って時計アプリを起動させたスマホを見ていた。
ずっと前に開始させたストップウォッチの画面は止まることを知らずにずっと動き続けてくれるので安心するから。
どれくらいの時間が過ぎただろうか、突然固いはずのスマートフォンの画面がゆがむ。あまりの突然さと俊敏さに半ば寝たような脳みそを起こすまもなく液晶に飲まれる。体に纏わりつくスマートフォンの熱を感じながら意識を手放した。
意識を取り戻すと三人称視点になっていた。
僕の先程まで座っていた窓枠付近には持ち主を失ったスマートフォンが落ちていた。そのスマートフォンにおそらく僕らしき人がドロドロした液晶に飲まれていくその光景をどうすることもできずにただ見守っていた。見守ることしかできなかった。
無機質なはずの板が生命を帯びたかのように、確実に僕を飲み込もうとしている意思をもったかのようにさえ見える飲み込まれ方。
何故か無抵抗に飲まれていく僕の体。
黒っぽい液体にじわじわと飲まれ、見えなくなっていく体。
三人称視点にも関わらずリンクする“息苦しい”という感覚。
体に纏わりつくスマートフォンの熱。
普段のような苦しさはないが多少の焦りを感じた。そこにいる僕が飲み込まれきったらそこはどんな世界なのだろう、薄ぼんやりと眺めては三人称視点の僕もどうにか動こうと試してみるが壁になってしまったかの如くびくともしなかった。
暫くして髪の毛1本まで飲まれてしまった僕はその後何時間見つめてもでてくることはなかったし、三人称視点の僕もまた、どれだけ動こうとしても動けなかった。
ただどこまでも底へ引きずり込まれる感覚を最後に僕は目を覚ましてしまった。
先程まで生命を宿していた冷たいスマートフォンの時計は05:22。夢の中で最後に見た時刻だった。
今思えばもしかしたら三人称視点だと思っていた方の僕自身も飲み込まれている最中だったのではないか、などと思うが、一度中断してしまった世界である以上真相はスマートフォンの暗闇の中だった。そんな考察でもしながら僕はいつものように窓枠に座って時計アプリを起動させたスマホを見ていた。
ずっと前に開始させたストップウォッチの画面は止まることを知らずにずっと動き続けてくれるので安心するから。
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