白い海と黒い酸素。

 目が覚めたら真っ暗な世界にいた。真っ暗で周りには何も見えないのに不思議なことに自分の手足や足元は目視できた。飼い猫のスイには暗い夜がこう見えるのだろうか、などと思いながら手をひらひらとさせる。

この場所はなんだろう、どこから帰れば良いんだろう不思議に思いしばらくぼーっと周りを眺めていたら極僅かな小さな小さな何かが這いずるような音がした。水音、とも違うその音は次第に大きくなっていった。

怖いもの見たさ、逃げなければという本能から、音のした足元にゆらゆら目をやると白っぽいグレーっぽい、発光したような細長い何かが蠢いていた。(以下ミミズと称する)


ミミズは何をするでもなくただその場で渦をつくりずっとぐにゃぐにゃしていた。

何かわからないそれ存在がだんだん集まってくる光景。黒かった世界は次第に白く溢れていく。

あまりの気持ち悪さに嘔吐いていると足元にミミズが落ちてきた。ミミズがおそらく口元から、若しくは見えない天井から落ちてきたことに対する動揺が引き金となって必死にせき止めていた何かが溢れ出すように吐いた、はずだった。今日食べたものは何だっけ、思考の裏で考えながら足元に目をやる。

でてきたのは想定とは異なる吐瀉物だった。胃液ですらない。吐いたときの喉を焼くような感覚の代わりに感じるのはいやに冷たい感覚。ひたすらミミズが溢れてくる。とめどなく溢れてくる。止めなければという焦りから反射的に飲もうとするがその力も弱く、ひたすらに踊るミミズ。

自分でもわかるくらいに青ざめて真っ白になっていく床に膝をつく。僕の体重に押され潰れるミミズの体液は真っ青だった。この生物が何なのか自分から溢れてくるのは何故なのかぐるぐる考えながら、一度壊れた堤防からあふれるミミズをただひたすらに吐き続ける。長い時間休まることなく吐き出される苦しさに涙が浮かぶはずなのだが体内には彼らしか詰まっていないのかミミズしか流れてこなかった。自分の手足が次第に骨と皮になってもなお体からでてくるのはそれだけだった。

長く感じられた時間の末空っぽになった体は次第に真っ白な海に近づいていく。薄れる意識の中で最後に見たあれは何だったのだろう、きちんと目をやる余力もなく、僕は目を覚ましてしまった。


とても、とても、冷たい世界だった。

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